11

 はめ込まれたガラスの奥の鉱石が淡い水色の光を灯す。綺麗な光だ、本題とは逸れた事柄が頭を過る。


「今、魔法使ったんだけど」


「……だよな。光ってたもんな」


 確かに鉱石は光った。光の強さとしては魔法を習得で来た久炉の腕輪の物と変わらない。きちんと魔法は使えているはずだ。



 光の色が関係あるのだろうか。他の生徒の物を見ていないことには判断できないが、魔法の習得度によって色が変化する可能性が推察された。


「魔法の習得度によって色変わるとか? ある程度使えるようになったら水色から赤くなるとかさ」


「それはないんじゃない? 昨日、あんたも失敗してたけど最初から赤だったし。もしそれならあの時は私と同じ色だったはず」


 仮説を否定される。思考を続けても答えは見えない。頭を使いすぎたせいか少しだけ動悸がする。

 今のところ違いは光の色だけだ。色の違いは魔法の系統によるものだろうか。魔法には個人差があると説明会で聞いた。光の色が違ってもおかしくはない。


 もしかしたら、花火の魔法はすでに発動している……?



「何かさ、魔法成功してるってことないか? なんか、こう……体内で何かが起こってるとか」


「えー? 何も違和感ないけど」


「んっと、じゃあ……見えない何かを召喚したとか?」


「幽霊とか? でも使った私が見つけられないなんてことはないでしょ。多分」


 発動しているのに本人が気づけないだけ。現時点ではその可能性が一番高い。本人も発動した感触はあるようだ。そうなるとこれしか考えられなかった。

 しかし、可能性を述べたところで彼女が見極められなければ意味がない。


「ダメだー。また魔法関係の先生に聞いてみるしかなくね? 一緒に来てもらって見てもらえば何かわかるっしょ。それか授業で詳しく説明してもらうの待つか」


 自分達の推測だけでは答えにたどり着けない。出会ったばかりではあるがすでに友情を芽生え始めている生徒が魔法を上手く扱えず、トラブルの被害を受けるのは嫌だ。


 だが、先に魔法を習得したとはいえ、力になれることはない。専門家に頼るのがベストだろう。


 久炉はまたマスクをずらし、ジュースのストローを咥え、中身を一気に吸い上げた。糖分を摂取しても頭は回りそうにない。

 冷たい物を飲んだせいか、友人の力になれないことがふがいないからなのか、それとも今後の不安からか、風が強く冷たく感じた。



 急に携帯の着信音が鳴り響いた。聞きなれない音。だが、知っている音。穿いている学校指定のジャージのポケットから折りたたみ式の黒い携帯電話を取り出した。

 思いきり人にぶつけたのだが、丈夫な機種なのか問題なく使用できる。

 着信を示す水色のランプが点滅し、小さな液晶には“斉藤”と発信者の名前が表示されていた。


「忘れてた……」


 呟きながら通話ボタンを押す。耳に当てた瞬間、怒鳴り声が響いた。


「相崎! お前何してんだ、呼んだ時間とっくに過ぎてるだろ!」


 耳に飛び込んだ怒号に耳の中でキーンという音が鳴る。あまりに相手の声が大きいので携帯電話を耳から話して応対する。


「あー、時計見てなかったんですよ。近くにいるんで今すぐ向かいますから」


 相手はまだ何か言いたそうだったが電話を切る。どうせ会った時にも怒られるんだ。面倒事はまとめたい。


「誰? 先生?」


「うん。すっかり生徒会の用事忘れてた」


「そっか。じゃあ行ってきなよ。私はもう少しここで休んだら帰るから」


 魔法で疲れ切っている友人を放置して行くのは気が引けるが、本人が大丈夫と言っている以上、言葉に甘えるべきだ。少し早歩きで職員室に向かった。

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Synthetic School 南雲 楼 @nagumo_low

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