10
自身の置かれた状況に不釣り合いな春の陽気だった。だが、Yシャツの上に学校指定の水色のジャージを着ているだけでは肌寒い。
気温は低くても太陽光は温かく、日なたにいれば気分がいいくらいだ。こんな学校に入学しなければ、純粋にこの気候を楽しめただろう。
久炉はため息をつきたい気分だった。急に吹いた強風に体を震わせる。
「あ、でもやっぱ寒いかも」
「さっきの魔法でも使えばいいじゃん……」
本館の裏にある中庭。花壇が作られていたり木が植えられていたりと景観に凝っているようだ。
木製のベンチがいくつか設置されており、学校生活が本格的に始まれば休憩時間等をここで過ごす生徒も現れるだろう。
個別実習室を出た二人は中庭のベンチに一人分の距離を空けて座っていた。花火は疲れ切ってしまったらしく真新しいベンチ背もたれに寄りかかって脱力している。
彼女の魔法はここまで体力を使うのか。この様子を見ていると自身が魔法を使うことも躊躇われた。
「んー。魔法使ってまで暖まりたくないしなー……。太陽光は暖かいし」
「まあ、使いすぎない方がいいかもね。ここまで気分悪くなるとは思わなかった」
花火は近くの自販機で入手した水を口に含む。久炉もマスクをずらし、紙パックに刺したストローを咥えた。
自販機に限らず、校内での施設での買い物はポイントを通貨に換算して保存するカードを使用して行うことができる。
ねえ、と花火が水のボトルのキャップを閉めながら口を開く。マスクを戻しながら顔を向ける。
「魔法使うのってどんな感じ?」
「どんなって言われてもなー……」
久炉の脳内で言葉が飛び交う。感覚的にはわかるのだが、言葉にして説明することは容易ではない。
「なんかさ、魔法使おうとすると右手が上手く説明できない感覚になるんだよね。そんでそこに力込める感じ? いや、力ってか意識込めるって言ったほうがいいかな……集中するっていうか……」
精一杯言葉を選ぶもどうにも形容しがたい。これが今できる一番わかりやすい説明だった。花火は、どうにも腑に落ちないと、言いたげな表情になる。
「そうなの? 私もそんな感じなんだけど」
「え、マジで……?」
「うん、右手じゃなくて左手だけど、だいたいそんな感じ。最初にやってみようと思った時、急にどうすればいいか分かったんだよね」
話を聞いている限りでは魔法を習得するまでの手順は同じだ。花火も突然魔法の使い方やどうすれば使えるかの感覚といったことが理解できたとのこと。
昨日の唐突な発言はそれが原因らしい。ただ啖呵を切っただけではなかったようだ。何かができそうだと思ったら試してみたくなるのが人の性だ。
「わかんないよなー! 単に魔法が使えてないとか? 音も聞こえてないし光とか炎も見えてないし」
自分ことではないのだが頭を抱えたくなる。考えてもわからない。元から頭を使うのは嫌いだ。
「それはない……はず。腕輪光るし」
ほら、と花火は左腕の腕輪、そこに搭載されている白磁色の鉱石を久炉に向けた。
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