後悔を待っている
やらなかった後悔よりやった後悔みたいな言葉があるけど、アレは嘘だ。やらない方がマシだった。一人で後悔して苦しんだ方がマシだった。僕は僕の大好きな人を、ほんのちょっと勇気を振り絞ってしまったがために、その後悔に巻き込んでしまった。本当に申し訳ない話だ。
僕がまだ十六歳で、高校生で、彼女の友人だった頃。彼女はその頃も世界一可愛い女の子で、僕はその頃も彼女に夢中だった。あんまりにも好きで、友達でいるのがつらくなって、絶縁でもなんでもいいからこの恋を終わりにしてしまいたいと思っていたらうっかりOKなんてもらってしまって、そこからしばらく時間を掛けて僕の劣情がどういう種類のものであるかを彼女に説明し、改めてOKをもらって付き合うことになった。
最初のうちは幸せだった。僕の大好きな世界一可愛い女の子が僕のことを好きだと言ってくれるのだから幸せでないはずがない。当時は携帯(ガラケー)の待ち受けにペア画(二人の携帯を並べると待ち受けが一つの画像になるやつ)(伝われ)を設定するのが流行っていたのでそれをやってみたり、人のいない(田舎のデフォルト)電車に手を繋いで乗ってみたり、学校で週五日も会ってるのに休みの日にもわざわざ会いに行ったりした。メールは毎日何時間もしていた。知っても知っても足りないくらい、彼女を知りたかった。
それなりに長く付き合ったと思う。少なくとも高校生的には、結構長く付き合った。彼女は少しずつ僕を拒絶するようになった。
手を繋いで歩けなかった。
一緒に出かけることも嫌がられるようになった。
もう別れる、と何度言われたかわからない。
好きと言って泣き、嫌いと言って泣く彼女をどうやってつなぎ留めたらいいのか、つなぎ留めていいのかどうか、わからなくなっていった。
君だけでいいと言ったら君だけじゃ嫌だと言い返された。
なんでも与えられるつもりでいて、彼女のためならなんでもできる気がして、実際には奪い取るものの、傷つけることの方が多くなっていった。
結局、ふと別れてしまった。
友達でいてねと言われたので友達でいることにした。正直ここまで親密な友人関係は想定していなかったけれど、あの頃より今の方がずっと、彼女は笑顔でいる。
僕と彼女はだいたい何の話でもするけれど高校時代の話はしない。付き合っていたあの数年の話は絶対にしない。傷はまだ僕らの間にどかんと横たわっていて、乾くことがない。あるいはそう感じているのは僕だけかもしれない。
彼女は僕に「君が好き」と言った。「でも一緒にいるところは見られたくない」と言った。「誰かに見られている気がする」と言った。「気持ち悪い」と言った。
彼女を幸せにしたかった。なんでもできると思いこんでいた。何もできなかった。
今、私はただ時間を待っている。彼女が手の届かないところに行ってしまう日を、何もかも手遅れになってしまうその瞬間を、じっと口を噤んで待っている。
私の元恋人は、今日も、明日も、きっとこの先ずっと、世界一可愛い。
旧、初恋の人 豆崎豆太 @qwerty_misp
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