うつくしい

 一行一行読み進めるたびに、まるで深窓の令嬢のように繊細で流麗な文章にどんどん惹かれていきました。これはきっと伊右衛門千夜さんの心に多かれ少なかれ存在する「優しさ」がなせる文章だと感嘆せざるを得ません。反復や二項対立構造が効果的により幻想的な世界観の根底を支え、文章のまとまりごとにそれぞれ調節された行間の大小は登場人物の情緒をより高めることに一役も二役も買っており、伊右衛門千夜さんの文章力にはほとほと感服するばかりであります。
 さて、肝心のストーリー展開についてですが、時事問題とそれに通ずる現在を生きる全世界人の奥底にある根源的な恐怖とを巧みに絡め、それをさらに発展させる、そのカラヤンのように丁寧で丁寧な指揮にはページを進める手が片時も休まることがないほどでした。緻密な設定と、そしてその緻密な設定が土台となって活きているからこその後半における大胆な展開の突飛にはまさしく圧巻の一言です。
 上述にもありますように、この物語には二項対立が効果的に機能しています。それを事細かに理解しているからこその半ば掟破りに近いルビの振り分けとは正に伊右衛門千夜さんの物書きにおける才能が最も表れている箇所といっても過言ではないでしょう。

 ……まあ、その。


 そろそろ紙になってもよいころではないでしょうか?

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