ある刑事の疑心
「気を落とさないで下さい。 青沼さん」
「……」
イラつた俺は、半分吸いかけた煙草を携帯灰皿に押し付けポケットにしまった。
「こんな状況でよく平気でいられるな、玉城よ」
「取り乱しても仕方ないじゃないじゃないですか? それより今は一刻も早く子供達についての手がかりを掴むべきでは?」
ちっ。
言ってる事はごもっともだが、コイツには人に対する思いやりとかそんなのが欠落してる。
俺は、にこにこしながら俺にチューンガムを差し出す玉城にうすら寒い物を感じながらある一軒の家に前で足江尾止めた。
「ここですか?」
玉城は、まるで廃墟なのかよ疑いたくなるようなボロボロの外壁の家に眉をひそめる。
「ああ、ここだ通報あったのは」
数週間前。
●●町第三小学校で、相次いで子供達が失踪した。
行方不明になったのはどれも6年生ばかり6人。
うち一人は、昨日、学校付近の河川敷で両手両足を工業用のネジで密着された瀕死状態で発見された。
精神的ショックが大きく聴取の捕れない状態で、犯人についての手がかりを得られてはない。
「近隣からの通報……異臭でしたよね? 全く、僕らにこんな仕事を回すなんて! 所轄に任せればいいのに!」
玉城が吐き捨てるように言う。
「これも、大事な仕事だ。 行くぞ」
俺は、インターフォンを鳴らす。
カチ。
「ん?」
「音、しませんね……故障かな?」
インターフォンを鳴らす俺の代わりに玉城がサッシの戸を叩く。
「すいませーーーん!」
返事はない。
ここには確か、祖父祖母、母親、子供の4人が住んでいる事になっている。
誰もいないのか?
「うっ!」
突然、玉城が口と鼻を覆い数歩下がる。
「どうした玉城?」
「うぇっ、ひ、酷い臭いです!」
臭い?
俺は、玉城のでかい図体を押しのけ戸に近づく。
「うっ!?」
コレは……!
俺は、問答無用で戸を蹴破る!
「あ、青沼さん!?」
「拳銃用意しろ」
「はぁ!?」
「念のためだ」
若い玉城はまだ場数が足りないから知らない。
コレは、人の腐乱臭だ。
俺は慎重に家の廊下を進む。
と言っても、あまり大きくない家だすぐにその臭いの元凶にたどり着いた。
ガタッ! ガタッ!
玉城がその戸に手をかけるが、なにやら目張りされていて開かない。
「あれ? 開かない? 何だこれ?」
「貸せ」
バキン!
「うわ! また蹴破ったよこの人!」
呆れいる玉城を無視して、中に入る。
台所の床、食卓テーブルの側に何かワンピースのようなものを身に着けた子供が死んでいる。
すでに、蟲も沸いていて腐敗が酷い。
「ひ、ヒドイ……! 行方不明の子供なのか……?」
口元を抑えた玉城が、吐き気をこらえながら呟く。
「恐らくな……生存者がいないか探せ」
「はい……」
そそくさと玉城が廊下の奥に消えたのを確認して、俺は腐乱する死体をもう一度眺めた。
「山川……ともこ?」
その顔は、だいぶ腐敗が進んでいたが目元に見覚えがある。
「守れなかったか……」
包帯男。
山川ともこは、失踪前その『包帯男』なる人物に追われたと警察に届け出ていた。
俺は、この子の証言を最初こそ信じなかったが捜査を進めるうちに目ぼしい人物には行き当たったが立証までには至っていない。
そうこうしている内に、山川ともこは失踪。
結果がこれか。
そして、あと一人。
誰だこの女は?
「あ、あ、青沼さん!!」
あと一人の確認をしようとした時、血相を変えた玉城が柄にもなく慌てた様子で駆け込んできた!
「どうした? 生存者か?」
「い、いいえ、残念ながら、そのっ」
「どうした?」
「恐らく、失踪した子供たちは全員死亡しています」
「何?」
玉城に案内された風呂場で俺が見たのは正に地獄絵図だった。
数日後。
●●町第三小学校で、相次いで子供達が失踪した事件について県警は被疑者死亡と発表した。
死亡が確認されたは6名。
生存していたのは1名。
被疑者は、この家の所有者の照屋秀美35歳。
驚いた事に、自身にも娘がおり死亡した子供たちと同じ学校にかよわせていたらしい。
状況としては、被疑者は相次いで子供を誘拐し解体、その体の一部をつなぎ合わせ着飾らせると言う猟奇的な行動に出たと推察される。
目的については不明。
解体された部位については故意に切り取られた部分が、冷蔵庫に保管され消費されていた痕跡のある事から食料としてた可能性があるがそれは司法解剖の結果待ちだ。
ただ、判明している事はかつて被疑者は性犯罪の被害者でありその時妊娠した子供を出産しているという事だ。
そして、今回その娘も失踪した。
安否は確認されていない。
状況を考えるに、生存は絶望的だろう。
被疑者である照屋秀美の死因は、現状にあった練炭による一酸化炭素中毒と推測できるがこちらも司法解剖の結果が待たれる。
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報告書を書き終えた俺は、煙草に火をつけ一度深く吸う。
今回の事件は、明日には公式発表があるだろうか事件の凄惨さから詳細は伏せられる。
「……なにか納得できない事があるんですか?」
玉城がコトリとコーヒー缶を置く。
「動機とかいうなら、被疑者死亡じゃどうしょうもないですよ?」
「いや……」
俺は、コーヒーに口をつける。
あの台所の戸は、明らかに外から目張りされていた。
誰がそんな事を?
俺はコーヒーを飲み干し包帯男についてのメモを確認する。
近くでカフェを経営していた外国籍の男がいたが、山川ともこに確認をさせる前にこんな事になってしまった。
そして、そのカフェはもう閉店している。
近所の人によれば、娘と国に帰ったとか。
引き続き調査を続けるが、決定打にかける。
俺は余りにすっきりしない幕切れに、イラつきながら煙草に火をつけた。
トモダチつくろう 粟国翼 @enpitsudou
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