第6話

「何!? ヴァンクリーフ王国が一日にして落ちただと!?」



彰人が召喚された国――――紹介する機会がなかったがヴァンクリーフ王国という――――の隣国である、ラーンデルフィア皇国。その中枢である王城にて、王をトップとして円卓に並んだ閣僚が兵士の報告を受けていた。緊急の会議だった為、開かれた時間は深夜遅くだったものの、誰一人としてその采配に異議を唱える者はいない。それだけ事の重要性が大きいという証だ。



「え、ええ。私達も目を疑いましたが、間違いありません。先日まで城の存在していた場所は、既に焼け野原です」



兵士の慌てたような報告に、閣僚はざわつき始める。一際高い場所に座っている国王は、腕を組んで黙ったままだ。



「そんな……いくら勇者召喚も出来ていない国とはいえ、一夜にして落とされるほど貧弱ではない筈。そんなバカなことが……」


「これは魔王共の仕業ではないか? 一日で滅ぼす程の力といい、個人で強い力を持つ奴等にしか出来ん」



一人の閣僚がそう意見するが、膝をついている兵士がおどおどと反論する。



「お、お言葉ですが大臣。魔王軍の仕業にしては、損害が少なすぎます。なんとも信じられない事ですが、城下町には一切の被害がありません」


「だが、それ以外に誰がやったというのだね?」



若干不機嫌になりながら、兵士へと高圧的に接する閣僚。その彼を別の温厚そうな閣僚が宥める。



「まあそう怒るな。彼も考えなしに話している訳ではない。実際、魔王軍だとしたら損害の少なさは気になるだろう?」


「……フン」



鼻をならしてそっぽを向く大臣。それを見て苦笑した温厚そうな閣僚は、続いて兵士へと目を向ける。



「それで、他に情報は無いのかい? 具体的には……犯人の情報とか」


「申し訳ありません。そこまでは……」



恐縮そうに頭を下げる兵士。閣僚はそれに手を上げる事で応えると、彼に退室を促した。


兵士が退室した後、会議が始まる。といっても、情報の少ない現状では方針を決めるのも一苦労である。



「やはり野心のある帝国がやったのではないか?」


「いや、いくら帝国でも一日では……」


「事前に間諜を配置しておけば……」



こんな問答が繰り広げられたかと思うと、



「やはり魔王の配下、魔族の仕業では?」


「むう……個人の力と言う意味では最も可能性の高いものだが……」



こんな会話がなされていたり。


対策を決める会議の筈が犯人探しへと切り替わっていた事に彼らが気づいたのは、ここからおよそ三十分ほど後のことである。



「――――もう止めよ。これ以上答えの出ない問いを考えても無意味ぞ」



唐突に発せられた国王の言葉に一同はハッとなる。彼の言葉を聞くため、それ以降は一ミリたりとも言葉を発さない。やがて国王は、その重々しい口を開いた。



「……もう、魔王に抵抗する余裕は少ない。奴等の手に落ちるくらいなら、かの国を我が統治下に置くべきかも知れぬ」



騒然とする一同。それも仕方のない事だと言えた。なぜならば、国王が言った事は火事場泥棒となにも変わらない。ただ盗むもののスケールが違うだけであり、他の国から批判を集めることは必至である行為だからだ。


それをわからないほど愚昧な王ではない。だからこそ彼らは驚いたのだ。



「それは……国王様」


「わかっておる。だが、対抗するにはそれしかない……」



国王は意志の籠った瞳で円卓の閣僚を見渡す。



「――――勇者を使ってでもな」






◆◇◆






結局なんの収穫もなく宿へと戻ってしまった彰人。わかったことと言えば自分が指名手配されているという下らない事実だけである。チンピラに関わってしまった事も含め、実に無駄な時間を過ごしてしまったとため息をついた。せめてもの慰めとして、脳内で過去にあった出来事を思い返す。


そもそも彰人の住んでいた異世界とは、科学と魔法が発展していた『アルス』と呼ばれる世界である。人々は魔法と科学の融合した技術、魔導を使い日々の生活を送っている。基本的に魔導は道具が必須となり、誰でも扱える代わりに扱うには相応の訓練が必要という代物だ。


だがそんな世界において、道具なしで生まれつきに魔導を発動できる彰人は異端であった。それだけならばただの珍しい人間で済んだものの、さらにそれが通常の魔導よりも遥かに協力となってしまえば話は別だ。研究者達は解剖を持ち掛け、闇の組織には命を狙われ。おまけに両親はその力を恐れて彰人の事を政府の研究組織に突きだそうとした。


それからだろうか。彰人が全てを燃やすようになったのは。


手始めに両親を燃やした彼は、これまでの鬱憤を晴らすかのように攻撃を続けた。研究者、闇の組織、政府の研究機関、etc……。とにかく今まで自分に関わってきたもの全てを焼き尽くしたのだ。これが彼の始まり、全ての原点である。



「……ッチ」



下らないことを思い出してしまったとばかりに頭を振る彰人。面倒なことは寝て忘れるに限る。そう考えて宿の扉を開く。



「あ!! お帰りおにーさん!!」



……面倒なのが残っていた。そう考えた思わず彰人は顔に手を当て、宙を仰ぎ見た。

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炎使いは燃えるのか。 初柴シュリ @Syuri1484

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