【1】斯くなる上は、劔を持って罪人を斬るべし③

〔3〕

一人対集団の殺し合いに先ず必要なのは、例え敵が百人、千人いようとも、動じない堅い心である。それが無ければ、いくら相手を捻じ伏せる絶対的な力を持っていようと、叩きのめされるだけだ。無論、動揺しない心構えが自身の中に存在し、相手を安易に屠れる強靭な力も握っているのなら、そいつは何かを護る戦士か、悪用し、社会の強敵となる。現に、例に挙げた二種の人間が、今、睨み合っている。

「この大群の首領は、貴様だったのか、嘉山。」

「あァ、日本の最凶犯罪者が頭で驚いたかァ、戦争国家(ロシア)の端くれェ。」

嘉山連汰、現在全国指名手配中の犯罪集団『ライヒ』のリーダーである。その名は、世界各国に知れ渡っており、日本以外にグレート・ジャーマン(ドイツ連合)やローマ連邦、タイ独立王国等の国でも犯罪を犯している大物だ。

最近、消息不明だったが、よもやこの件の計画の為に身を潜めていたのか。

「しかし、当てが外れたな。既にお仲間の半分は第九班ウチの優秀な班員のおかげで死んだようだが。」

「そうだなァ...けどよォ、俺はテメェをブッ殺せればァ、それでいいんだよォ!!テメェが主導して行った特警の世界展開のせいでェ、俺の何度も何度もォ、危ない目に遭ったんだよォ!!」

特殊警察の世界展開、及び特殊警察条約に基づいた国際機関『地球連合警察(グラウンド・フォース)』の設立。これは、特警の導入を他国にしてもらい、一国の小規模な治安向上ではなく、地球全体の大規模な治安向上を図ろうとする計画であり、今から三年前の二千百九十三年に決定した、世界各国四十八ヶ国中十二ヶ国で構成されている。その十二ヶ国とは、大日本東国、ロシア連合、大北米合衆連合国、カナダ公国、フランス法国、イギリス連邦王国、蘭舞國、ドイツ連合、ローマ連邦、シンガポール中立国、タイ独立王国、そして、ブータン独立王国である。

この大業を主導したのが、三年前の逆戟六牙である。当時は、十九歳で、まだ平刑事であったが、ある時、関東地方の刑事班を治める地方管轄長・元野時文に目に付けられた。

訳は、その年に起きた大事件、新宿暴動事件(二千百九十三年八月九日)の時、俺が現場で、襲ってくる集団に対し、躊躇なく立ち向かい、全犯罪人を斬ったのを観ていたことによる。彼は、俺を呼び出し、巡査だったのを警部に特別昇進させた上に、専用装備を製造し、俺の手に渡した。これと引き換えに、世界平和を実現する為の計画(プロジェクト)の責任者を任される。

何処で知ったのか、俺が家族を紛争で失ったことを持ち出し、俺の力は平和世界の樹立に尽くすべき等と言われてしまった。彼の巧妙な言動に感化され、結局、特殊警察の世界展開に尽力する事となった。

今思えば、あれは俺を利用して日本を権力の有る国に仕立てようとしただけなのかもしれない。だが、おかげで平和への第一歩を踏み出したのは、確かである。

「まだ何かやらかそうとしてるのか。さっさと首くくって、今まで殺した、何の罪も無い方々に詫びを入れればそれで済むんだよ。お前は全く反省していない。」

「あァ...反省する気なんてェ、無ェからよォ!!」

緑の弾頭が視界に入って来た時には、もう遅かった。噴煙を出しながら近づいたそれは、大爆発を起こし、周囲を白煙で覆われる。

RPG-7、旧ソビエト連邦軍が開発した携帯対戦車擲弾発射器である。比較的軽量なのに対し、威力は高い為、多撃銃(アサルトライフル)・AK-47と同様、犯罪集団が好んで使う武器である。常人が直撃すれば木端微塵、幾ら戦車でも、二、三発浴びれば砲身諸とも吹っ飛ぶ。

これを防ぐ術すべを、俺を持っている。

「まァ、死んだかァ。オイ、オメェらァ、行く―!?」

どいつもこいつも、息を呑んだことだろう。何故なら、肉片も残らない程に焼失した筈の俺が右腕を前に出して、無傷で立っているのだから。少し煙が晴れた所から見えた俺は霊か何かに見えただろう。

この直撃を無力化する盾がある。

逆戟六牙専用装備『高電子分散光盾』である。盾と称しているが、実際発動しても、盾と呼べる形のものは目に見えない。空気中に雷を走らせ、技術革新によって生まれた、空気磁石を造り、一時的に磁場とする。右腕(アーム)に張り巡らされた超伝導物質の内部を、マイスナー効果によって磁束密度を零にすることで、一切物体の通らない、『壁』が出来る。この『壁』に当てることで、爆発の衝撃をこちら側に伝えることなく、むしろ跳ね返す。

「頭の悪い奴には、この理屈を説明しようとも、絶対に理解は出来ないだろう。更に言えば、こんな訳分からない兵器モノで殺されるのは屈辱であろう。」

嘉山は、俯いている。そして、叫ぶ。

「テメェ...ブッ殺してやる!!」

短刀ドスを腰から抜き、殺意剝き出しで向かってくる。

俺は余裕を持って背に下げていた刀に手を添える。

「だから、せめて理屈の分かる武器で、殺してやる。精々、楽に死ねることを祈るがいい。」

近づいた嘉山の首が飛んだのは、俺の半径二メートルに足を踏み入れた瞬間だった。頭部は反対側に落ち、胴体はその場で平伏した。

逆戟六牙専用長刀『第七式・弐翻刀』。弾丸を斬れる脅威の物質密度、人間の骨の硬さを全く感じない鋭さ、曲の無いシンプルな刀である。血が刃の表面を滴り、ポタポタと地面に落とす。さながら、古代の侍のようだと感じる。

先導者が死んだ今、この犯罪集団はガタガタだ。足を一歩、後ろに付け、恐怖に脳裏が駆られ、怯える顔。此れ全て、俺の力を知った結果である。

誰も、反撃の意志を見せない。罪を犯し、これからも罪を犯せない者は、人間でいる価値など無い。価値の無い人間は、この世から消え去るべきである。

「全員一緒に、逝かせてやるよ。」

そう告げて、右手を前に差し出し、光線が放たれ、一直線に進む。

『反熱核雷砲撃(オメガドライブ)』、我、逆戟六牙専用最終攻撃用雷放光線である。動力源は、事前に体内電池(インボディー)に溜めておいた紅雷(レッドスプライト)。紅雷とは、超高層紅色型雷放電、スプライト現象で引き起こされる発光現象。この雷を集電し、超高電圧状態にして放つことで、爆発的動力放射を行うことが可能になる。これを喰らうと、十キロ先まで、触れたもの全てを焼き尽くす。

前方三十キロ先までに、建築物他人一人いないのは確認済み。いたのは、只、一個小隊並みの塵屑(ゴミクズ)だけ。撃っても、第三者には全く被害は及ばない。被るのは、当事者のみで充分だ。がしかし、当事者というのは、相手だけではない。

この能力を使用する場合、体内電池の密閉壁が開き、雷を右腕を蓄電する必要性がある。だが、この過程で、身体全体が感電する。この感電を防ぐ為に埋め込まれた、計八つの妨電装置が致命傷を回避しているものの、装置に雷が届くまでは体内が電気衝振(デンキショック)を受けている。かといって、体内電池と右腕アームを全雷移行線(コード)で繋ぐ空間(スペース)が体内には無いばかりか、蓄電に最低一時間は掛かる。それでは、無意味だ。

大量の敵を確実に殺せる反面、体に多大な負担を掛ける。俺は、代償として、身体への痛覚を揺さぶらせている。例えるなら、諸刃の剣だ。

俺は、その場で倒れた、体内電池の密閉壁が閉まるのを確認して。

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東京兵甲 暗山巧技 @feelthegravity

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