大広間の階段

 マッチ売りの少女がヴィランの群れに追われて階段を駆け下りてくる。

 小さな靴音を、ビーストヴィランの足音とウイングヴィランの羽音が飲み込む。

「いやあ! 助けて! 王子様!」

 泣き叫ぶ少女をモルテ卿=タオがかっさらい、ナイトヴィランの槍が空を突き、そこにイグニス=シェインが斬り込んだ。

「こっちだ!」

 エクスがマッチ売りの少女の手を引き、踊り場の隅へ避難させる。

 今度の敵はなぜかさほど強力ではなくて、エクスが導きのしおりを取り出した時には戦いは終わっていた。


 マッチ売りの少女が震えながらエクスにしがみついた。

「あ、ありがとう王子様……じゃない? 王子様じゃないの? 誰よこの地味な人!?」


「地味な人って……」

「間違ってはいませんが」

「ひでー言われようだな」

 見ていた三人が口々につぶやく。

 エクスは「ハハハ……」と乾いた笑いをもらすしかなかった。


「そんなことより王子様は!?」

 マッチ売りの少女が階段の手すりから身を乗り出す。

 見下ろした大広間では、王子様とシンデレラがしっかりと寄り添って、互いの無事と互いの愛を確かめあっていた。


「新入りさん。目の毒なのです。向こうへいくです」

 シェインがエクスのすそを引っ張る。

「ははは、いいんだ……これで、いいんだ……」

 エクスの笑いは、さっきよりも少し湿っていた。

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