階段の踊り場

「やっぱりそうなのよね。あたしにはチャンスなんか……」

「え……?」

 エクスが心の中でつぶやいたものに良く似た言葉を、マッチ売りの少女が実際に口にした。


「せっかくヴィランをけしかけてシンデレラを亡き者にしてやろうと思ったのに……!」

「ちょっと待って! いったい何を……」

「そして自分はピンチを装って王子様に助けられて運命の出会いをして、ゆくゆくはお妃様になって贅沢な暮らしをしてやるって思ってたのに!!」

「そんな……まさかこの子が……」

 マッチ売りの少女はエクスたちの目の前で正体を……カオステラーの姿を現した。


「うああああああ!!」

 少女の両手に、赤黒い魔力の炎が点る。

「もうすぐ十二時を回る! あたし、知ってるのよ! 舞踏会が終わって、もとの暮らしに戻ったら、待っているのは悲惨な結末だけだってッ!」

 炎が火力を増して燃え上がる。

「だったらいっそッ!! お城も国も何もかも壊してやるッ!!」


 今まさに最後の戦いの火蓋が切って落とされようというその時……

 嘆きの声を張り上げる少女に、シンデレラが駆け寄った。

「落ち着いてください! あなたの運命の書にはそんなことは書かれていないはずです! だってあなたは……」

「だって魔法使い様が! 魔法使い様が言っていたのよ!」

「そんな……いったいどの魔法使いがそんなことを?」

 後ろに控えていた魔法使いたちが「私じゃないぞ!」「私でもないぞ!」とわめき始めた。

「ここには居ないわ! 髪の長い男の人よ!」


 エクスたちが顔を見合わせる。

「レイナ! これって……」

「ロキ……!!」


 マッチ売りの少女の絶叫は続く。

「クリスマスに凍死するなんてイヤあああ!!」

「落ち着いてくださいってば! クリスマスはまだずっと先ですよ!」


 叫び続ける二人のかたわらで、レイナは静かに本を開いた。

「混沌の渦に呑まれし語り部よ。我の言の葉によりて、ここに調律を開始せし……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る