町を見下ろす丘

 霧を抜けると、いきなり崖っぷちだった。

「きゃあ!?」

「おいおい、お嬢、大丈夫かよ?」

 悲鳴を上げたレイナの襟首を、タオが素早く掴んで引き戻す。

「後ろは森。崖の向こうは城下町ですね」

 いつもどおり落ち着き払って状況を確かめるシェインの声に、崖下をあぜんと覗き込んでいたエクスがあんぐりした口を閉じて視線を上げる。


「あれはシンデレラ城!?」

 喜びと懐かしさと、驚きと、まさか信じられないという気持ち。

 ここはエクスの故郷なのかと、騒然とする仲間たち。

 だが……

「……良く見ると町並みが違う。良く似た別の想区みたいだ」

 少し寂しげなつぶやきに、戻らないと決めた故郷への複雑な思いがにじむ。

「その話はあとでするです。それよりも……」

 感傷を寄せつけない、感傷がないのではなく見せないだけのシェインの声に、皆が一斉に振り返る。

 薄暗い森の奥からヴィランの群れがうごめき出ていた。



 勝負は一瞬だった。

 タオが導きのしおりの力で変身したゴリアテのハンマーが、一気にヴィランたちを吹き飛ばした。

 しかし、視界の中に動く敵が居なくなっても、誰も油断はしなかった。

 ヴィランというもののしつこさ、数の多さは、新入りのエクスの感覚にもすでに染みついていた。



「きゃああああ!!」

 悲鳴は森の奥から響いた。

 木の枝を掻き分け、湿った土を踏み越えて駆けつける。

 穏やかぶった木漏れ日が、一行の目には皮肉めいて映った。

 大きな栗の木の下に、うずくまって身を寄せ合う小さな子供が二人。

 それをヴィランの群れが取り囲んでいた。



 今度の勝負もまた一瞬だった。

 シェインが変身したグレシア姫の氷の魔法は、一見乱射のようでいて、実は狙い鋭く、たがうことなく。

 子供たちにはかすりもせずに正確にヴィランだけを打ち抜いていった。



 戦いが終わり、子供たちにもう大丈夫だと声をかける。

 小さい方の女の子は号泣しながら、少しだけ大きな男の子はこぼれそうな涙をグッとこらえてお礼を言った。

 二人とも森の奥に住む木こりの家の子供で、ヘンゼルとグレーテルと名乗った。

 兄の方はいかにもといったツギハギだらけの服装。

 だけど妹は奇妙なことに、まるでお姫様のようなドレスを着ていた。


 エクスたち一行はこの幼い兄妹を町まで送る道すがら、この想区がどういう世界なのかを教えてもらった。

 舞踏会で出会ったシンデレラと王子様の晴れやかな婚礼とともに、シンデレラに招かれたフェアリーゴッドマザーが宮廷魔術師になって一年。

 フェアリーゴッドマザーのもとにたくさんの魔法使いの卵が弟子入りをした。

 弟子たちはその魔法の腕を競うために、町でスカウトした女の子を魔法でドレス姿に変身させて、お城の大広間でファッションショー……その名もシンデレラ・コレクションを開くことになったのだそうだ。

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