ドレスアップの城下町
ヘンゼルとグレーテルを城門まで送り届ける。
この先はエクスたちは招待状がないので入れない。
ヴィランが出たからにはどこかに居るはずのカオステラーの手がかりを求めて。
町をさ迷っていたエクスたちの耳に、どこからか、か細い声が飛び込んできた。
「マッチ……マッチ……マッチはいかがですか……?」
通りの向こう。
そちらへと駆け出す。
「……誰も買ってくれない……」
ため息をついたのは、ボロボロの服を着た……変身前のシンデレラよりも輪をかけてみすぼらしい格好をした少女だった。
その少女に……
「もし、お嬢さん?」
エクスたちよりも先に声をかける者が居た。
「はい! まいどあり!」
「いえ、マッチを買いに来たのではなくてですね、お嬢さんにこちらをお届けにまいりました」
立派な身なりの青年が、ボロをまとった少女の前で、うやうやしく膝をつく。
「これは……お手紙?」
「わたくしはお城の使いの者。こちらはお城の舞踏会への招待状でございます」
「まあ、素敵! 舞踏会! ……でも、わたしは見てのとおりのしがないマッチ売り。わたしなんかがこんなものをもらっても、お城に着ていくドレスなんて買えるわけがありません」
「それならどうかご心配なく。こちらの巻物は、開けば誰でもドレス姿に変身できる魔法の道具。宮廷魔術師フェアリーゴッドマザー様の弟子の若き魔法使いたちが、師より受け継ぎし力を示すために作り上げた品でございます」
二人の周りにはいつしか人垣ができていた。
ついさっきまで、マッチを買わされてなるものかと、少女に呼びかけられても目を合わさないように足早に通り過ぎていた人々が、今は少女をジロジロと無遠慮に凝視している。
うらやましいとか、あの子ばかりズルイとか、そんな言葉がひそひそと飛び交う。
国中の美しい娘がドレスのモデルとして城に招かれるという話は、この辺りではすっかり浸透しているようだ。
エクスたちもまた、人垣に混じって様子をうかがっていた。
「ヘンゼルとグレーテルが話していた通りだね」
「お城の舞踏会かぁ。何だか懐かしいなあ……」
「何とかしてシェインたちもお城に潜り込めないですかね」
「へえ、お前もああいうのに興味あったりすんのか?」
「ドレスはともかく招待状はほしいです。この想区の主役はおそらくシンデレラ。ならばカオステラーはシンデレラの近くに居るはずです」
おのおのが感想を言い合っていたその時……
「グルルオオオオオ!!」
突然のことだった。
人垣が、ヴィランに変身し始めた。
活躍を決めたのはレイナが変身した白の女王だった。
ヴィランの群れを蹴散らすと、先ほどまでマッチ売りの少女と話していたお城の使いがレイナに駆け寄ってきた。
「おお! なんと美しい! あなたこそまさに美のクイーンだ!」
「え? あ、あたし? やだっ、そんなっ」
変身したままの白の女王の姿に向けての言葉なのに、自分に言われたみたいに照れている。
「美の女王よ! どうかあなたも舞踏会の招待状と、ドレスの巻物をお受け取りくださ……う……ぐ……うぐうううううう!?」
使いの者の手から紙束が落ちた。
次の瞬間、彼はヴィランに変身していた。
「きゃあ!」
「危ない!」
振り上げられたカギ爪とレイナの間に、ステイに変身したエクスが飛び込む。
神官戦士の剣技が一瞬でヴィランを切り伏せる。
その背中を狙う別のヴィランを、タオのゴリアテのハンマーが叩きつぶす。
シェインは今回は炎の騎士イグニスの力を使う。
レイナは白の女王の穏やかな声で、ヴィランにならなかった町民を落ち着かせて避難させる。
戦いが終わった時にはマッチ売りの少女も居なくなっていた。
もとの姿に戻ったレイナの手には、使いの者がレイナに渡そうとしていた巻物と招待状がしっかりと握られていた。
「ちょうど人数分ありますね」
レイナの足もとにシェインがしゃがみ込み、使いの者が落とした鞄を漁って言った。
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