ファッションショーの大広間

「わーい! こんな素敵なドレス、初めてー!」

「くるくる~! ひらひら~!」

「こらー! お城の廊下を走らない!」

 はしゃぐ赤ずきんとアリスを、レイナがドタバタと追いかけ回す。

 その様子を暖かく見守りながら、魔法使いたちはそれぞれに自分がデザインしたドレスこそが一番美しいと語り合う。

 フェアリーゴッドマザーは広間の隅でワイングラスを傾けながら、弟子たちの成長に満足げに微笑んでいる。


「すごいや、レイナ、ブルーのドレスがばっちり似合ってる。本当にもともとはお姫様だったんだね」

「シェインもなんのかんの言いつつピンクのドレスで嬉しそうにしてやがるな。女ってのはそういうもんなのかねえ」

「タオ兄も新入りさんも巻物を使えば良いのです。戦いで汚れた服では目立ちすぎるです」

「いやいやいやいや」

「鬼ヶ島流女装術を教えてやるのです」

「勘弁してくれよ、おい」

 と、こちらはこちらでドタバタと逃げ回っていると……

 突然、ワルツの演奏が止まった。


 不思議に思う暇もなくワイングラスの割れる音が響き、人々がヴィランに変身し始める。

 赤ずきんやアリスが叫び声を上げて逃げ惑う。


 四人はすぐに導きのしおりの力で変身して戦い始めたのだが……

「きゃああああ!!」

 絹を裂くような悲鳴に、エクスの意識が持っていかれた。

「ああ! シンデレラ!!」

 助けに飛び出そうとするステイ=エクスの瞳から、そのエクスに今まさに拳を振り下ろそうとするメガ・ゴーレムの姿が消失する。

 気づいた時にはもう避けられる間合いではなくなっていた。


   ガッ!!


 強烈な一撃を、ゴリアテ=タオの盾が受け止めた。

「シンデレラは!?」

「黙って目の前の敵に集中しろ!!」

 グレシア=シェインの魔法が飛び、ドロシー=レイナが切りかかる。

 ステイ=エクスも剣を握りなおす。

 メガ・ヴィランの次の攻撃をかわして脇に回りこむと、そこではゴーストヴィランが待ち構えている。

 エクスは素早く導きのしおりを裏返し、帽子屋ハッタに姿を変えて魔法で攻撃した。


 斬撃、魔法、打撃、斬撃……

 ここではない想区で、ここに居るのとは別のシンデレラは、エクスの幼馴染だった。

 エクスは彼女が好きだった。

 完全な片思いだった。

 思いを伝えることもないままエクスは故郷を離れた。

 エクスと同化した帽子屋ハッタが、純朴なエクスではありえないようなシャレたしぐさでお辞儀した。

 長い戦いが終わりを告げた。


「シンデレラ!? シンデレラ!!」

 変身が解け、肩で息をしながらエクスが叫ぶ。

 レイナとシェインが言葉もないまま目だけを見合わせる。

 仕方なくタオが重い口を開いた。

「王子様がしっかり守ってくれてるよ。最初から最後までずっとな」

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