第7話 サツジンキ
第七話 『サツジンキ』
例えばどうだろう。
自分の彼女が目の前で犯され、それを助けようとして相手を刺した。
ところが、刺す相手を間違えて、自分の彼女を殺す結果となってしまった。
どうかな?みんなもそんなマヌケな経験ってあるかな?
どうかな?あるかな?ないかな?あるかな?ないかな!
俺はいまどこにいるのだろう・・・
そして何を思い、どうしたいのだろうか・・・
全てが他人事の自分事を、もうろうとしながら考える。
ああ、そうだ。
俺はさっき間違えて彼女を殺してしまったのだった。
だから今、手に握られた刃物が、ヌルリとした血で染められているのか。そうか、そうか。
納得。
寒い!
なんだか寒いと思ったら、雨が降っていやがる。俺は傘もささずにいたから全身ビショビショだった。
それにこの寒さは、雨だけのせいじゃない。なんかこう・・・心というか精神を急激に凍らせ、ブリザードを吹かせたような冷たい寒さが、俺の心臓を凍えさせる・・・そんな寒さなんだよな。
肩がガクガク揺れ、手がブルブル震える。目がギョロギョロと走り出し、喉がゼィゼィと鳴る。
・・・こんな風邪の症状は、生まれて初めてだ。
どこかで手当てをしないといけないな・・・どこか病院、病院・・・ってココはどこだ?
なんだか夜景がとってもキレイな場所なのに、カップルはおろか、人ひとり居ない。
ひょっとしたら、俺だけの秘密の場所を発見しちゃったのかぁ?
よし!今度だれか女の子を誘ってここに来よう。
そうだなぁ、出来れば好きな女の子がいいな。そういえば俺にはたしか好きな女の子がいたハズだ。
たしか・・・トーコだ。
明日にでもトーコを誘ってみよう。あ、まてよ・・でもトーコは死んじゃってもういないんだった。
せっかく俺が将来幸せにしてやろうと思っていたのに、どうして死んでしまったのだろうか?
バカな女だ。
ま、いいや。しょせんその程度の女でしかなかったんだろうからな。俺はもうあんな女忘れることにするよ。
もう興味ねぇよ。死んじまった人間なんかに興味もってもしょうがねぇよ。
あれ?
俺はいつのまに自分の部屋にいたのだろうか。さっきまで、どこか夜景のキレイな場所にいたハズなのに。
まぁいいか。どうでもいい。すべてがどうでもいい。
トーコは死んだし、ガリガリの恐怖に引きつった顔も見れたからいいや。
さてこれから俺はどうしよう?もうするべき事はなくなったし、目標もとくにないし。
考えてみれば、俺はトーコの事を本当に好きだったのかさえ疑問だ。
ただ、以前は好きであったろうと思われる女としばらくぶりに再会し、ひょっとしたら俺の事をずっと思っていてくれたら嬉しいなぁって、そんな程度の期待を込めた感情だったような気がする。
そもそも『好き』って感情は何なのよ?
好きとか嫌いとかってさ、自分の思い通りにさせたい願望の変化したヤツなだけなんじゃない?
そう思うとなんだかバカらしくなってきておかしくなってきた。
プッ・・・ククク・・・ワッハハハ!
だめだ!おかしくなって笑いをこらえられなくなってきた。傑作だよな!だって俺は好きでもない女を間違って殺しちゃったんだからさ!これが笑わずにいられますかってんだ!
ワハハハハッ!ぶっククク・・・うひあひはぁ!っすくすくすぃ~・・・ひ!・・・
ふぅ~う・・・笑った笑った・・・
よーし!こうなったらもうどうなってもいいや。もう一度、間違って殺した女の顔を見たくなってきたぜ!
早速出掛けるとするか。それとあの記念の刃物も持っていこう。そうすれば、間違って彼女を殺したという傑作な冗談を、起こした本人の証拠になるもんな。今ならギャラリーがたくさんいるかな?
やっばいなぁ・・・もしサイン下さいっ!なんて言われたらどうしよう?
だって俺はさ!彼女を殺したヒーローなんだからさッ!
もうこうなったら途端に楽しくなってきた!外行きの服に着替え、証拠品の刃物を探した。だが、刃物はどこにもなくて見つからなかったので、諦める事にして外に飛び出した。
「うっひょ~い!」
俺はなんだか叫びたくなってヘンな奇声をあげてみた。
すばらしく通った声だなと自分で実感した。やっぱ人間楽しい事があると、声まで高くなるんだな。
俺は両手を水平にあげて、ジェット飛行機のように飛び立つ気持ちでタカタカと走った。
トーコのアパートまでは、少しばかりの距離があったが、全然苦にならなかった。
そして、いよいよトーコのアパートが見えたので、俺はますます加速してタカタカタカと走った。
俺はなんだかわからない期待感に奮え、とつぜん興奮しだした。あの射精感をまた味わえると思うと、嬉しくてたまらなくなった。
「いひひひひ!」
口の中の唾液がネトネトになってポタポタとこぼれ落ちた。
もう俺の頭の中には、例えようのない快感のことでいっぱいだった。
もうすぐだ!もうすぐだ!もうすぐあの絶頂間を味わえるんだ!
「二橋クン・・・・?」
ところがそこに、俺の予期せぬ人物が立っていたのだった。
誰だコイツは?
「おい二橋?何してんだ。それにどうしたんだよ!その格好は!」
どうやら何者かが、俺の姿を見て驚いているようだった。
「あれ?トーコ・・・・それにガリガリ・・・・なんで?なんでこにいるの?っていうかなんで死んでないの?」
「きゃあー!」
突然トーコが声を上げた。俺はその声を聞いて驚いた。死んだハズのトーコがなんで生きているのか?
「二橋!おまえ下半身はどうしたよ!何してんだよッ!」
ガリガリもなにやら叫んでいる。俺の下半身がどうとか言っている。
「それよりも聞きたいのはこっちだよ・・・どうして俺が殺したハズのトーコが生きているんだ?それにガリガリは恐怖に怯えて階段を転げ落ちて死んだんじゃなかたっけ?あれ、生きてたっけ?どっちだよ!」
「ひぃ!こ、こいつおかしいぞ!」
「いやぁ!だ、誰か助けてー!」
なんだよコイツら。人の顔見ておかしいだ助けてだとウルサイんだよ!オマエらのほうがオカシイよ!
俺は少しばかり頭に来て、そこらへんに落ちていた木の棒を拾った。
そしてそれをとりあえずブンまわしてみた。
ブヒュン!ゴッ!
あれ?何かに当たった・・・倒れているのはガリガリ・・・頭から黒い液が流れている・・・
あ、これって血じゃないのか?どうしたんだ?そんなとこで勝手に血を流されても困るぜ俺は。
「おい、トーコ。ガリガリが血を流してるぞ。どうしたんだコイツ?」
俺はトーコにその不自然な出来事を尋ねてみた。
「ひゃあ!い、いやあぁぁッ!こっ、来ないで!来ないでえぇー!」
ん?なんだ?トーコが突然、俺の事を怖がってうしろに倒れたぞ。そして恐怖でひきつったような顔をして後ずさりまでしだしたよ。
一体どうなってんだこりゃ?まるでこれでは、俺がガリガリをブン殴って、トーコにまで襲おうとしているみたいじゃないか・・・・あれ?実際そうなのか?俺がトーコを襲っているのか?
「どっちなんだかハッキリしやがれー!」
俺はワケがわからなくなって、トーコに怒鳴った。だがトーコは顔をクチャクチャにさせて口をガクガクさせていた。どうやら恐怖で声が出せないようだ。
それに・・・おやおや。ついにオモラシまでしやがったよ、コイツは。俺はそっちの気はないから安心しろって。別にオシッコ飲ませてくれって頼んだんじゃねぇんだからさ。オマエ漏らしすぎ。漏らしすぎだよ。
「ぷははっ・・・あははは!」
俺はトーコのそんな姿がおかしくなって笑いだしてしまった。
だってさ、いいトシこいてオモラシするなんてカッコ悪すぎるじゃんか!
「だめだコイツ!だってオシッコ漏らしてるんだぜ?ダメダメじゃん、こいつぅ~!」
俺は大声を上げて大笑いした。なぜか大笑いするたびに下半身が熱い。
熱い。熱い。熱い。そして痛い。勃起しすぎて俺の如意棒が痛くてたまらない。
何かがあふれ出てきた。というより、噴き出した。公園の噴水や、消防車の放水ホースのように勢い良くドバッーっと噴出したのだ。止まらないやめられない。興奮と快感の絶頂と坩堝のミックスジュースだ。
「きゃああッ! いやっ~! た、たすけ……ウゴッ!?」
俺は如意棒から吐き出される白い悪魔をトーコに向かって射撃した。射精ではなく射撃なのだ。
当然、トーコはそれを自ら望んで顔で受け止める。高尚なる恵みの泉をその身に受けたトーコの顔はなんと美しくも醜く興奮するのだろうか。そして、俺は如意棒を五行山下に突き刺した孫悟空にように、トーコの物欲しそうな顔の口にズボリと挿入した。驚いて硬直しているトーコには、それを黙って受け止めるのもまた精神修行なのだ。俺は、トーコの腐りきった心の悪魔を追い払うべく、自分の身を犠牲にしてまで、魂の浄化を行わなくてはならないのであった。ああ、何という厳しい修行なのだろうか。天竺に向かった孫悟空は三蔵法師を守るために魔物と戦うという命がけの苦行を行ったのだが、俺の苦行もまさにこれと同等かそれ以上なのだと納得した。
俺の荒行も繰り返し行われる頃、トーコはすでに失神していた。
なんだ、だらしない。こんな程度の修行さえも行えずに寝てしまうなど、あきれてものも言えない。俺の如意棒はさらにサイズアップして硬直し、その先端からほとばしるパトスが神話になった。シンクロ率、いや、チンクロ率は1200%まで上がり、波動砲発射のトリガーが引かれ、ガミラスがイスカンダルになる頃、地球は絶滅していたのかもしれないと森雪も言っていただろう。とにかく。トーコの口からこぼれ落ちる聖水は、悪魔城ドラキュラのアイテムよりも強力で、上とBボタンで発射しにくいという欠点さえなければ完璧だった。
トーコの肉体を駆使しての性行為。お互いがお互いを求めた結果の愛の結晶体。満足感を通り越した優越感。これ以上はもう何も望まない。というより、SEXってこんなにツマラナイものだったのか?
もういいや。トーコという女のことはキレイさっぱり忘れることができそうだ。よく、世間で言われる『ヤリチン』というのは、まさに今の俺のことだろう。あまりにもモテ過ぎるというのも、困った話だ。いっそ、全世界の女性から嫌われた方がどんなにラクだろうなと、深く考えずにはいられなかった。
俺は、全世界の人々が幸福になれるように祈った。それにはどうすれば良いか? それは、まず自分が幸せにならなければならないのだ。その為には、善良というか人々に尊敬され崇拝され支配してやるような人間にならなければならない。それは、ある意味、神に最も近い存在にならないといけない。俺にはまだまだやらなくちゃいけない事がたくさんあるのだ!
怯えるな! 進むのだ! そして、走り続けるのだ!
明日がどうなるとか、自分の将来が心配だとか、地球の環境がどうなるとか、そんな小さな事にこだわって生きていてもどうしようもないダメ人間になってしまうのだ!
まずは、自分がダメ人間から神様まですべてを経験し、人知と超生命体を超えた先には、きっと未来という言葉が見えてくるのだろう。だから、俺は生きる。生きた証を見つける為に生きるのだ。
なぜ? どうして? そんな無意味な言葉はいらない。
焉(いずくんか) しょもぺ @yamadagairu
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