第22話 I am waiting for you last summer.



“……去年、入学してすぐあなたと涼宮さんの仲を取り持ったのはなぜかわからない。でも、今ならこう言える。

 わたしはクラスを平穏に保つために、あなたに涼宮さんに話しかけて欲しかったのではなかった。孤立していた涼宮さんがかわいそうだからでもないの。


 あなたと話すきっかけを作りたかっただけ。

 入学してまもなく、涼宮さんが結成したSOS団に私も参加したかったの。

 でも、涼宮さんはわたしには無関心なまま、九組の古泉君や上級生の朝比奈さんを仲間に選んだ。そして長門さんも。

 長門さんが選ばれなければ、きっとわたしが選ばれていたはず。もし彼女がいなくなったら、次は……。

 なんて酷いことを考えていたんでしょう。


 それっきり、涼宮さんとキョン君たちはいつでも行動をともにしていて、それだけで完結してしまった。団員は増えも減りもせず、そこから何も生まれないまま。


 そこから先はよく覚えていない。

 あの夕日にすっかり染まった教室でわたしはたった一人で待っていたような気もするし、あなたはそこに来たのかしら? 

 わからない。すぐに転校してしまったから。


 日本を離れ、カナダに来てまもなく夏休みになりました。

 カナダのハイスクールでは夏休みは九月いっぱいまで続きます。とても長かったせいで、この夏は終わらないのかと思ったくらい。

 実は夏休みに一時帰国していました。

 一年五組の誰にも教えないで、誰にも見つからないように。

 この期間はきっと神様が――いるとすればですが――考える時間を与えてくださったのだと今では信じています。

 おそらくキョン君は気がつかなかったでしょうけれど、わたしはあなたが涼宮さんと長門さんを自転車に乗せてどこかに行く様子を見かけました。盆踊りの会場でも、浴衣姿の涼宮さんとキョン君は一緒だったよね?

 あなたと涼宮さんの距離は眩しいくらいとても近かった。


 そのとき感じたわたしの気持ち、わかる?

 あの冷たい、突き放した言い方をしていた涼宮さんが、あなたと盛んに話して、笑っているなんて。とても驚く一方で、すこしだけくやしかった。


 このわたしが悔しいだなんて……。

 あの無限に続くかのような夏、やっとたどり着いた解答。それはあなたを思っていたのは涼宮さんだけじゃないってこと。


 涼宮さんがあなたに関心を寄せたからって、なぜ自分の気持ちを我慢しないといけないんだろう。

 そう気づいた途端、これまでの悩みがどこかへ消えていった。それは半年たったいまも変わらない。

 むしろあなたへの気持ちはずっと強くなって、それが何かからわたしを救ってくれている。わたしがおかしくなるのを必死で止めているの。


 キョン君。わたしはあなたが好きです。

 あなたの答えがたとえ否定であっても、この気持ちは変わらない。


 そのときは心から、涼宮さんとお幸せに。じゃあね、って言えると思う。

 キョン君がそれで幸せなら。それでいいの。


 ただ、何も伝えないままで去ってしまうことはできない。我ながらほんとうに融通の利かない性格ね。


 わたしの心にはあの長い長い夏が今もずっと続いていて、わたしはそこで待っているの。あなたがそこにもう一度やって来てくれるのを。


 たとえどんな結果に終わるとしても、あなたにもう一度だけ会えたらきっとすべてが終わる。

 ……そんな気がするのです。“




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女王の帰還 伊東デイズ @38k285nw

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