第8話「心の距離②」

「夾也、そういえばその肩から下げているものはなに?」

「ああ、これは木刀だよ」


 夾也は肩から下げるプラスチックのケースに目線をやりながら答える。

 黒いプラスチックのケースに収まった木刀、それだけ見ると誰も彼が騎士学校の生徒だとは気づかないだろう。

 それこそ普通の学校に通うただの部活帰りの高校生にしか見えない。


「なんで木刀なんて身につけているの?」

「ほら……俺さ……まだみんなみたいな力がないだろ。だから他に最低限身を守れるものを身につけておきたくてさ」

「でも妖魔には次元刀以外効果ないんじゃ……」

「たしかに妖魔に効果はないけど、襲ってくるのは妖魔だけとは限らないだろ?」

「人間……」

「そうそう、昔に比べてここらも物騒になってきたような気がしてさ。この前もここらで人の変死体が発見されただろ」

「……たしかにそうかもね。ここらへんも景色がすっかり変わっちゃったらしいし。私たちが住んでいたところだって……」


 5年前とはすっかり変わった谷渋やしぶ駅を棗は感慨深く見つめていた。

 そうこうしている内に二人は目的のアイス屋:ディスコにようやく着いた。


「やっぱりまだ混んでないな」

「そうね、でもこれが今からそんなに混むなんて想像できないかも」

「見てろって、昼過ぎには混んでくるから。とりあえず注文しようぜ! じゃあ棗席とっといて、俺買ってくるから」


 アイス屋の近くに設置されたオープンカフェスタイルの椅子に棗を座らせる。


「わかっ、あっ待って、お金出してない」


 夾也は財布を持った棗の手を押し返す。


「いいって俺が全部出すよ、それに棗に出してもらったらお礼じゃないだろ。金は少しあるし、今日のために最近節約してたんだぜ」

「そう、ならいいけど」

「すぐ戻ってくるから、待ってて」

「うん」


 小さく首を縦に振った棗を置いて、夾也はアイス屋ディスコの屋根の下まで足を運ぶ。

 そして数分後、棗のところまで買ってきた物を持っていく。


「あっ、温かい紅茶まで買ってきてくれたんだ」

「アイス食べながら温かい物飲むとなんか得した気分にならない?」

「なにそれ、でも――美味しい」


 アイスを小さく口に一口分含みながら、夾也との会話で笑う棗。

 棗が笑うと夾也も温かい気持ちになる。それは昔から変わらない。


「紅茶もすごくおいしい。こういうのも確かにありかも」


 棗がそう言ってくれて、夾也は一緒にこれて良かったと改めて思った。


「棗がよければ、また何度でも連れてきてやるよ」

「えっ、んぐっ!?」


 夾也がそう言うとなぜか分からないが棗は盛大に喉を詰まらせる。


「棗大丈夫か、ほら紅茶」


 棗が無理やり喉に紅茶を通す。


「死ぬかと思った……夾也急に変なこと言わないでよ!」


 よほどむせたからか、棗の顔が少し赤みを帯びていた。


「変なこと、俺なんか言ったか? 俺たちは友達なんだから、また何度でも行けるだろ?」

「……友達。そうだわね」


 一瞬、ほんの一瞬だが夾也には棗のテンションが下がって見えたが、その訳は分からなかった。


「ああ、今度は義朝とか由良とかも連れてきてさ、みんなで楽しもうぜ」

「その時も、夾也の奢りかしら」

「……それはきついから、勘弁してくれ」

 

 リアルに少し考え込んだ夾也だったが、さすがにそれは生活が苦しくなると思い断った。


 そんなこんなで夾也と棗はアイスと紅茶を堪能した。夾也たちがおぼんの上を空にし、帰ろうとした15時過ぎにはやはり情報通り……。


「本当に混んできた」


 驚いた表情をする棗。

 やはり夾也の話に半信半疑だったようだ。


「早めに来て正解だっただろ」


 勝ち誇った顔を見せる夾也。


「うん、この列はさすがに並ぶの大変そう」

「だろ?」


 アイス屋を後にし、行きたいところはないかと棗に聞く夾也。

 すると棗はまるでなにかの覚悟を決めるかのような顔をしたかと思うと、話を切り出した。

 

「……私行きたいところがあるんだけど……ついてきてくれる?」


 

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