Epilogue

「賞金首狩り。賞金首として認定された人物を、その条件が生け捕りのみであっても必ず抹殺するのよ、あの子たちは」

「なんだって、そんな不合理なこと……」

「それはね」ニーアは少し寂しそうな目をする。「あの子たちの師匠――あの子たちに生きて戦うための技を教えた人物を殺害したのが、賞金首だったから。でも、それが誰なのかは誰も知らない。賞金首という情報しかわかっていない。だから、あの子たちはこの世界の賞金首すべてを憎み、消し続けている。賞金なんて興味ないのよ、あの子たちにとっては……ん、終わった頃かしらね」


 ニーアが砦のほうを見る。

 砦はいつのまにか、静かになっていた。

 砦から、穏やかな顔のパレットとバレッタが歩いてくる。


「おつかれさーん」

「げ、ニーアさん……」


 パレットは明らかにいやそうな顔をする。


「なーによ。あんたたちの後始末してんのもあたしなんだから、感謝してよね。……お疲れ様」

「ニーアさん、いつもありがとうございます」


 バレッタは深く礼をする。一方のパレットはしかめっ面で腰に手を当て、むーとうなるような溜息をついた。


「そ、それで……ギルギスは!?」


 町民の一人がおずおずと尋ねる。パレットとバレッタは一瞬、暗い顔で目くばせをして、それから元の穏やかな表情に戻る。町民の問いには答えなかった。


「ま、この子たちが帰ってきたんだから、あなたたちにとっての喜ばしい結果になってるわよ」

「お、おおお……!」


 ニーアが助け舟を入れると、町民たちは深い感嘆の声を挙げた。


「い、祝いだ、パーティーをしよう! 町を挙げて!」

「そうだ、喫茶店の支払いなんてもんじゃない、二人にはもっとちゃんと感謝の気持ちを示したいよ!」

「えっ、それ、あたしもいい?」

「ああいいさ! 今夜はギルギスの支配から放たれた祭り、無礼講だ、飲み明かそう!」

「お前らぁ! 調子に乗ってんじゃねえぞ!!」


 歓喜の声を挙げる町民たちの中に場違いな怒りの声が混ざり、その場の全員が声のした方を見る。

 腕から血を流したマドックが、青筋を立て、ギルギスのガトリングガンを提げてこちらを見ていた。


「あれは……マドックか!?」

「この期に及んで、愚かなことを……!」


 町人たちが嘆きの声を挙げる。

 パレットとバレッタは瞬間、町民たちの安全を考え、その場の町民たちの位置を確認すべくあたりを見渡した――


 いくつもの銃声が響く。

 ガシャン、と重たい音がした。


「あ……が……!」


 かすれた悲鳴を上げたのはマドックだった。ガトリングガンを撃つこともかなわぬまま地面に取り落とし、両手と肩から新たに出血している。


「せっかくみんなが勝利の美酒に酔いしれようってのよ、三下はすっこんでなさい」


 ニーアがそう言って、煙を引いている右手の銃にふっと息を吹きかけた。


「お、お姉さんもなかなか、激しいな……」


 町人のひとりが素直な感想を述べると、ニーアは返事の代わりに艶っぽくウインクした。


「とりあえず、これでもう反抗するやつもいないかしらね」

「あ、あれ……あの子たちは……」


 町人があたりを見渡す。いつのまにか、パレットとバレッタは姿を消していた。


「あーもう。あの子たちったら……お祝いくらい素直に受け取ればいいのに。……私も行くわ。パーティーは惜しいけど、あとで警察の本隊が来ると思うから、後処理はそっちに任せてちょうだい。それじゃぁね」


 言うと、ニーアはスクーターに跨り、エンジンをかける。けたたましい音と煙を挙げて、ニーアもまたガンパウダーパラダイスだった町から去って行った。

 残された町人たちはぽかんとした顔で、スクーターに乗ったニーアの後ろ姿を眺めていた。誰かが「嵐のような人達だったな……」と呟いた。



「あー、ちょっとだけ残念だったかな……」

「もう。いまのうちに行こうって言ったのはパレットなのに」


 バレッタは肩をすくめる。


「そうだけどさー。ま、いいか。……今回も、違ったね」

「うん、あんな弱い人に、師匠がやられてしまうわけ、ない」


 歩きながら二人はしばし沈黙したが、やがて顔をあげる。


「うん、また、がんばろ」

「そうだね……あっ」


 パレットが後ろを振り向くと、遠くから煙を挙げてスクーターが追いかけてきた。スクーターに乗ったニーアは、なにかわめいている。


「ニーアさんだ……僕たちのことなんて放って、パーティー出て行けばいいのに。はぁ……バレッタ、走ろっか」

「ふふ、そうだね」


 そう言って、パレットとバレッタは、追ってくるスクーターから逃げるように走り出す。

 二人の走る先には、果てしない荒野が続いていた。



<バレットエッジ パイロット版 了>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バレットエッジ -パイロット版- kenko_u @kenko_u

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ