第149話 星祭り その7
使える予算に限りがあるため、好きなモノを好きなだけ買う事は出来ない。それもあって、なおもこのずらりと並ぶ屋台の中で何を購入するかに頭を悩ませる。
困り顔の彼女を見たエーラが、ここで何気ない思いつきを口にした。
「なおちゃんならクレープとかが似合いそう」
「までも屋台のは高いしねぇ」
チョコバナナを食べながらマールはツッコミを入れる。普通のお店のクレープですらお高いのだから、お祭りの屋台のクレープの値段がどれほどかも分かると言うもの。
その後も屋台談義をしながら4人はチョコバナナの屋台に辿り着いた。そこで売られているのはチョコバナナのみ。ただし、かけられているチョコやトッピングには工夫が凝らされていて、どれも美味しそうだった。
ミチカは定番のチョコバナナではなく、ピンク色にチョココーティングされたものを選ぶ。きっと味はイチゴ味とかそう言うのだろう。美味しそうに食べる姿を見て、なおも心を動かされたようだ。
「あの、私もチョコバナナで」
その後、エーラもチョコバナナを買って4人全員がチョコバナナを食べながら屋台通りを見物する。買いはしなくても、多種多様な屋台の様子を見るだけでも結構楽しむ事が出来ていた。
売っている商品や売っている屋台の人、その商品に集まるお客さん、お客さんと屋台の人とのやり取りがテレビドラマのようで、そう言う視点で見ると見て回るだけで全然飽きなかったのだ。
「いやあ楽しい楽しい」
「そろそろ花火の時間だよ」
屋台通りをひと通り見終わったところで、ミチカが今日一番のイベントについて口にする。花火が上る前にベストな位置を確保するべきでもあったので、4人はすぐにベスト花火観覧ポジションへと向かった。
けれど、めぼしい場所はすでに多くのお客さんがスタンバっていたため、ため息を吐き出しながらいい場所がないかさまよい歩く羽目になる。
ようやく辿り着いた何番目かの観覧ポイントから夜空を見上げると、そのタイミングで花火が上がり始めた。
冬の花火とは言え、その勢いは夏の花火と何ら遜色はなく、何百発、何千発と星空に光の芸術作品を展開させていく。
「ひゃあー、すごいね」
「空気が澄み切ってるからか鮮やかに見えるよ」
マールもミチカも次々に上がる花火を見ながらそれぞれに感想を口にする。花火が上がり始めたのもあって、祭壇に集まっていた人達も屋台に集まっていた人達も、とにかくこの星祭りに集まった人達全てがみんな集まってそれぞれに夜空を見上げていた。
やがて花火の勢いがクライマックスを迎え、このイベントにも終わりが近付き始める。興奮も少し収まり、若干落ち着きを取り戻ところで、なおがこの光景についてポツリと口を開いた。
「こうやってみんな一斉に夜空を見上げるんですね」
「考えたら不思議だね」
「宇宙の精霊に感謝です」
「だねー」
なおの言葉にマールが反応し、ミチカが相槌を打つ。星祭りは宇宙の精霊を称えるお祭り。この賑やかさはこの星空の向こうにまで届いただろうか。
4人がそれぞれにこのお祭りに思いを深めている内に花火も終わり、それと同時にお祭り自体も終わりを告げた。集まった住人の皆さんがぞろぞろと帰り始め、マールも視線を夜空から地上に戻す。
「いやあ、堪能したね」
「面白かったっしょ」
ミチカは星祭り初体験の留学組2人に笑顔を向けた。マールもすぐに素直な感想を口にする。
「うん、この4人だったから良かったのかも」
「またこのメンバーで遊ぼうね」
こうして4人でまた遊ぶ約束をして現地解散と言う流れになった。マール達は帰っていく現地組2人に笑顔で手を振る。
「じゃあ、またね」
「またねー」
そうして、留学生組が祭りの余韻に浸りながら帰り道を歩いていると、何かに気付いたなおがマールの顔をじっと見つめる。
「あ!マールちゃん、時間がヤバいです」
「え?もうこんな時間?」
2人で時刻を確認すると、寮の閉まる時間が間近に迫っていた。どうやら、花火を見終わった後にしばらくまったりしていたのがまずかったらしい。
このままのペースで歩いて寮に向かうと、間違いなく門限を過ぎてしまう。なおは困り顔で訴えた。
「間に合うでしょうか?」
「あ、こう言う時こそ空間跳躍だよっ!」
「あ、そうでした!」
なおはマールのアイディアに目を輝かせる。普段校内でしか空間跳躍をしていなかったので、その考えが思い浮かばなかったようだ。
こうして2人はすぐに魔法を展開、無事門限までに寮に辿り着く。
寮の手前に跳躍してそこから小走りで入ると、寮母さんが笑顔で出迎えてくれた。
「お、ギリだったね」
「間に合って良かった」
「早く入りな、鍵閉めちゃうよ」
「は~い」
こうしてマール達は大きなトラブルもなく星祭りを堪能して、無事に1日を終える。彼女が満足顔で自室に戻ってきたので、僕はさり気なくその感想を聞いてみた。
「どう?楽しめた?」
「うん、良かったよ。とんちゃんも連れてきたかったなぁ」
「ま、僕は僕でね、のんびりしてたから」
僕はそう言うと思いっきり背伸びをする。その様子を見たマールは、優しく僕の背中をなでながら話しかけた。
「そか、今度一緒に出かけようね」
「いいよ、遊ぶなら1人で遊ぶし……」
「何だよもー。たまには付き合えー」
マールはその一言が気に障ったのか、いきなり僕の両前足を握ってブラブラと揺らす。ちょっとムカついたけど、しばらくはされるままにしてやった。
そう言えば最近はあんまりマールに構ってなかったし、やっぱり使い魔としてもう少し主人に関心を持った方がいいのかも知れないな。
マールはしばらく僕を玩具にして満足したのか、その後は開放してそのまま布団に潜り込む。そうして疲れたのかすぐに寝息を立て始めた。
そんな幸せそうな寝顔を見ていたら僕も眠くなって、その夜は彼女の布団に潜り込んで一緒に眠ったんだ。
魔法使いマールの日常 にゃべ♪ @nyabech2016
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