第148話 星祭り その6
お祭りの屋台はボッタクリと言う印象の中、この魔法料理の屋台だけは良心的だった。お腹が空いていたのもあってあっと言う間にペロリと平らげたマールは、食べ終わった空のパックとかをゴミ入れに捨てるとすぐにミチカの方に顔を向ける。
「これだけ人が集まるって事はさ、屋台以外にも何かイベントとかあったりするの?」
「ぬふふふ。実は花火があるのだよ」
ニヤリと勝ち誇った顔をする彼女。この言葉を聞いたマールは頭の中でイメージを膨らませる。
「へぇ、冬の花火って新鮮かも」
「みんなが星空を見上げるようにって意味もあるんだって」
「花火が上がったらみんな顔を上げるもんねえ」
花火の意味を知って、この会場にいる人々が一斉に星空を見上げているシーンを想像したマールは、花火が上がるのが楽しみになっていた。
と、このタイミングで時間を確認していたなおがみんなに向かって話しかける。
「あ、そろそろじゃないですか、踊りの時間」
「よし、行ってみっか」
余り乗り気でない現地組を引っ張る形で、留学生組がまた祭壇の近くまで歩き出す。途中で観念したのか、現地組も先行組に歩調を合わせ始めた。
そうしてまた祭壇の近くまで戻ってくると、最初の頃とは違って落ち着いた賑わいになっていた。この変化になおが感心する。
「それなりに人は集まってますね」
「一応伝統行事だからなぁ。年寄りばっかだよ」
「私達の同世代だけって言うのはあんまりいないみたいですね」
そう、最初に集まっていた頃は老若男女様々な世代の人が祈りを捧げていたけれど、そう言う人達はみんな目的を果たし終えて客層がすっかり変わっていたのだ。
今、祭壇前に集まっているのはこれから始まる踊りを見物する人々。集まっているのは高齢者の人がほとんどを占めていた。
その理由について、ミチカがぶっきらぼうにつぶやく。
「だってつまんないし。お年寄りにはちょうどいいテンポなんだろうけどさ」
「お、始まった」
彼女がブツブツと愚痴を言っている間に踊りが始まった。天から降りてくる精霊に捧げる踊りは静かで厳かで、でもスローテンポで理解出来ない謎の呪文のような言葉を繰り返し繰り返しつぶやいていて、確かに見ていてすぐに飽きてしまうような代物だ。
肝心の踊りも決まった単純な動作を繰り返すばかりであんまり面白くもないもの。派手で激しいダンスを見慣れていると、物足りなくなってしまうのも仕方のない話だった。
好奇心いっぱいで踊りを見に来たマールも、すぐにその目の輝きを消してしまう。
「うーん、これは……」
「ね、つまんないでしょ、屋台に戻ろうよ」
既に見飽きている現地組は、これで満足しただろうと留学生組の腕を引っ張る。
けれど、意外な事にマールはこの単調な踊りに見切りをつけてはいなかった。
「いや、これはこれで趣があるよ」
「ちょ、マジで?まさかなおちゃんまで同じ感想を?」
「この歌、すごく胸に刺さります」
星祭りの踊りの歌はなおの方が真剣に聞き込んでいた。この状況に、既に聞き飽きていて全く感情が動かなくなっていた現地組のミチカは首をかしげる。
「いやでも意味分かんないでしょ」
「いえ、この歌の意味は……」
なおはそう言うとその歌の歌詞を語り始める。実際、その歌の歌詞は伝承で語り継がれてきた古い魔法言葉であったため、今の本島の住人でも正確な意味を知っている人はほとんどいない。
けれど、なおは魔法的直感と幼い頃に刻み込まれた潜在意識に眠る古代の魔法知識で、その歌詞の意味を正確に理解していた。
彼女の語る歌詞の意味は、遥か昔に星の一族と交流のあった古代の魔法使いの物語だった。その頃の事を忘れないように歌にして語り継いだのだと。
その解釈を聞いた現地組2人は、揃って目を丸くする。
「本当にそんな意味なの……?」
「私も知らないから何とも……」
ミチカはともかく、博識そうなエーラですら首をかしげるこの事態に、やり取りを見ていたマールはどうしたらいいのか焦ってしまう。
ただ、なおの言葉には謎の説得力があったため、マジ顔になって現地組2人をじいっと見つめる。
「でもなおちゃんなら当たっていそうな気はするよ」
「まぁ、ね……」
魔法検定Aの彼女の言葉を疑える人物はこの中にはいない。ミチカもなおの言葉にただうなずくしか出来なかった。
そうして、その歌詞の意味を噛み締めながら4人が静かに踊りを見ていると、マールが何かに気付いて上空に向かって指を伸ばす。
「あ、ちょっと見て」
「え?魔法陣?」
そう、祭壇で踊りが舞われている最中にその祭壇の上空に見た事もない光の魔法陣が浮かんでいたのだ。神秘的な歌に神秘的な舞踊と言うシチュエーションの中で、突如現れたこの特殊な現象に気付いたなおもまたこの事態を素直に受け入れる。
「神秘的ですね」
「嘘?あんなの今まで一度も見た事がないよ」
逆に今まで星祭りに参加してお祭りに対する先入観みたいなものが出来上がっていた現地組は、この不可思議現象をすぐには受け入れられない。どうやらミチカもエーラも上空に魔法陣が浮かんでいるのを見るのは今夜が初めてのようだ。
――だとするなら、これもまたなおが見せた特殊能力なのかも知れない。
上空の魔法陣はその後、ふんわりと消えてしまい、その現象の意味についてはさっぱり分からなかった。その一部始終をしっかり目に焼き付けたマールは、淋しそうな表情を浮かべる。
「消えちゃった……」
「何だったんだろうね」
「そもそもあれは魔法陣だったのかな?」
「うーん……」
4人が上空魔法陣現象に頭を悩ませている間に歌は終わり、それと同時に踊りも終了する。演目が終わったと言う事で、見物していたお客さん達もぞろぞろと会場を後にし始めた。
その人の波に翻弄されるように、マール達も祭壇から移動する。
「歌、終わったね」
「じゃあ、また屋台だー」
「急げー!」
マールとミチカの元気組が競うようにまた屋台の方に走っていく。その動きにワンテンポずれてしまったなおは、ここで思わず手を伸ばしていた。
「あっ……」
「ま、私らはゆっくり戻ろうよ」
「そうですね」
なおとエーラの落ち着き組は、マイペースで屋台エリアに向けて歩いていった。その頃、先行していた元気組2人は自分の好きな屋台メニューに突入して、お目当てのモノを見事にゲットしてご満悦。
「うんまうんま」
「おーい!」
屋台をエンジョイしていた先行組の視線の先に、追いついてきた2人が見えたので、マールはここだと言う意思表示で手を振った。なお達もそれにすぐに気付いて手を振って返事を返す。
そうして無事に合流出来たところで、ニコニコ顔のミチカがなおに戦利品をプレゼントした。
「はい、イチゴ飴」
「あ、有難うございます」
イチゴ飴を受け取ったなおは代金を支払おうとしてものの、ミチカは手を前に出してそれを拒否。なので、彼女もその好意を有り難く受け取る。
飴をおごった当人の興味は、別の屋台で何かを買っていたマールに注がれていた。
「マールは何食べてんの?」
「ん、チョコバナナ」
「お、私も食べよう」
ミチカはマールと同じものを食べようと、チョコバナナの屋台に向かう。その道中で、イチゴ飴を舐めているなおにマールが声をかけた。
「なおちゃんも何か食べる?」
「えっと……」
「定番のお好み焼きとかどう?」
「そうですね……」
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