第8話 魔の森
「はぁああああああ!」
──ガキーン
「甘い!」
訓練場へと近づくにつれて勇ましい声や、鉄のぶつかり合う金属音が大きくなる。
触発されたのかファーラはセイスの周りをぴょこぴょこ飛び回りながら活発に喋りだす。
「セイス!セイス!みんなくんれんしてるね!声が大きくなってきた!ファーラもおじいちゃんの剣振り回したい!ローブからおじいちゃん剣だして!ね!セイス!」
「だーめーだ。散々振り回すなっていったのに言う事聞かなかった罰だ。訓練場で訓練開始までおあずけだ」
「ぶー。セイスのいじわる!もうしらない!」
セイスが言う事を聞いてくれないとわかるや、訓練場へと駆け足で去っていくファーラ。その後ろを付き添いをしていたレーナがあわてて後を追う。
「もうセイス!ファーラ様が!ちょっとお待ちくださいファーラ様ぁあああ!」
「元気な奴らだなほんとに」
あきれるセイスを置いて訓練場の入り口にさしかかったファーラは、駆け足を止め訓練中の冒険者たちを眺める。
「みんなかっこいい……」
「ファ、ファーラ様……いきなり走り……だすのは……お止めください……」
息をきらしながらファーラへ告げるレーナを他所に、ファーラは訓練中の者の動きを凝視しつづけた。初動から剣戟、そして次の一撃。見るものすべてを吸収する勢いで。
「ファーラ、赤い髪の剣士みえてるか?」
数分の後ファーラの隣に並んだセイスが語り掛ける。
「うん、ふぁーら見てる」
セイスが口にした剣士は明らかに手練れだ。初めてその動きを見たファーラがわかるぐらいの熟練者である。
「すごくはやい!うごきがなめらか!リードット叔父様やじいじみたい!」
「そうだな、リードットやハインケルさんのタイプだな。無駄な動きをせず、初動から剣戟までの時間がおそろしく短い。ファーラ、あのタイプにお前ならどう対応する?」
セイスは淡々とファーラへ問いかけるが、そのやり取りを聞いていたレーナが間に割って入ってくる。
「ちょっとセイス、ファーラ様が剣術なんて──」
「ふぁーらだったらはじめの一撃であいての剣ごとまっぷたつ、かな?」
「ファーラ様!?」
「よくできた。ファーラの使うオーガドレイアは長物──しかも刀身が恐ろしく太い、鉄の塊だ。相手の剣ではなく本体ごと壊しに行く、ただ相当な力と速さが前提だが。ファーラ、出来るか?」
「できる!お屋敷のお庭で何本か練習の剣折った事あるよ!」
「「……」」
ファーラの返事を聞き、セイスは昔冗談でジルベルト達に稽古をつけてもらえと言った事を思い出しながら口を開いて唖然とし、レーナは驚愕のあまり無言になる。
「まさか、ジルとリードット、ハインケルに稽古をつけてもらってたの、か?」
「うん!セイスに言われた通り!あの日から毎日だよ!」
「……わかった、ともかく手合わせしてみるか。レーナ、右奥の空いてる場所借りるぞ」
「わかったわ。私はギルドマスターに報告してくるから、くれぐれも怪我させないでよ!」
レーナはそう告げると訓練場を後にし、セイスとファーラは場所を移す。
周りで訓練していた冒険者達は、訓練場へ来た二人に視線を送ると手を止めざわめき始める。それはそうだ。方や異名持ちのSランク冒険者、方や次期領主の令嬢だ。
「お、おいおい、あれってセイスとファーラお嬢じゃねーか!?」
「本当だ……見学か、な?」
「あぁ、お嬢が見学に来たってんなら合点がいく、っておいおい!セイスがなんか馬鹿でかい剣だしたぞ!」
「嘘だろ……あんなデカイ剣を……お嬢に渡した!?」
「あれもしかして、先代領主オーガスト様のオーガドレイア!?」
周囲のざわめきを他所にファーラはオーガドレイアをブンブンと振り回し、身体をほぐしていく。その様はまるで一人前の騎士や冒険者であり、異様な重圧をまき散らしている。
「よしファーラはじめはるぞ。こっちは剣を構えないが、本気で当ててこい」
「えーーー!セイスふぁーらのことばかにしてる!?」
「馬鹿にはしていない。それと怪我の心配もいらないから全力でこい。一回でも体に当たれば言う事を一回聞いてやる」
「むむむ……おねがいきいてくれるのか……わかった!それじゃ本気でいくよー!」
「おう、こい。開始だ」
セイスが開始の言葉を言った瞬間、ファーラは5m程空いていた間合いを一蹴りで詰め、その勢いそのままにオーガドレイアをセイスに叩き込む。
──ドガァ
「はずれたぁ!ってうしろでしょう?」
ファーラは訓練場の土床にささったオーガドレイアの柄を握り手を変え、切りかかった勢いを利用しクルっと反対側へ体を向ける。そして間髪入れず二撃目を叩き込む。
(早いな……予想はしてたがとても子供のソレじゃない。へたすりゃCランク冒険者並の実力だなこりゃ)
予想以上のファーラの実力に二撃目を躱したセイスは、間合いを広げてファーラに告げる。
「ファーラ、お前の実力は大体わかった。それと足りない物もな。今日は足りない物を教えるから、心を強く持てよ」
「足りない物?わかんないけどわかった!」
やり取りを終えるとセイスは時空間の法衣に手を沈め、一振りの剣を取り出す。
その剣は普通の騎士が使用する長剣の様に特徴が無いものだが、セイスが魔力を剣に注ぎ詠唱すると青白く光り始めた。
「この手に絶対の勝利を──ヴィクトルブレイド──」
アーク物語 春寝のサクラ @harune-no-sakura
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