「オヤジ」「なんだ?」「やくそうって何?」

道具屋にて

「……薬の草に決まってるだろ? 薬草だよ、アンタ薬草を知らないのか? 新米冒険者なのか?」

「いや、ニュアンスは伝わってるんだよ。ああ、薬になるんだってね」


「ならそれで良いだろう?」

「何の草なんだ?」


「……は?」

「薬草という植物はないよね? 何という植物を使ってるんだ?」


「……何って、薬草だから、薬の成分になる植物を色々と配合してるに決まってるだろ?」

「いろいろ配合! そうだったのか、いろんな草を合わせてハーブって呼んでるようなものか?」


「そ、そうだ。詳しい配合は企業秘密だから教えられないがな。 さあ、そのやくそうがたったの8Gぽっちだ。買っておいて損はないはずだぜ」

「どうやってつかうんだ?」


「……『つかう』コマンドも知らんのか、お前は?」

「いやいや、そうじゃないんだよ。『つかう』のはわかるんだけど、これ、このやくそうって、サラダみたいに生で食べるの? ほら、薬って使い方間違えると大変でしょ?」


「……普通に考えれば煎じるんだろうが」

「へぇ……ってことは、つかうコマンドを選んだら、鍋かヤカンを用意して、水張ってやくそう入れて成分を煮出して、出てきた抽出液を使用するんだね。そうかそうか……」


「ま、まあ、そういう感じだわな」

「で、飲むの? その抽出液を」


「……そ、そうだな。飲むのが一般的だな」

「じゃあ擦傷や裂傷の場合も?」


「……ち、治療の用途によって使い方を変えるんだよ、傷にはすりつぶして少量の水で練って軟膏にすればいいだろう」

「そうか。なるほど」


「さあ、あんちゃん買うか買わないかどうするんだ?」

「その前に……」

「まだ何かあるのかよ!」

「どくけしそうって何?」


「…………は?」

「そのやくそうの横においてるどくけしそうだよ、それはやくそうじゃないの?」


「いいか、あんちゃん。薬ってのは用途を使い分けるんだよ。このどくけしそうは、毒を消すための解毒作用があるやくそうなんだ。さっきのは疲労回復、滋養強壮ってトコロだ」

「へー、傷と滋養強壮は一緒なのに、毒は別なんだ?」


「そ、そうだな。毒ってのはなかなか厄介だからな、普通のやくそうでは効かないんだよ」

「何毒?」


「……ん?」

「いや、何の毒に効くのかなって思って。虫? キノコ? それともフグ……?」


「そりゃあ、アンタ。へ、蛇だな。毒蛇だ」

「そうか、蛇か! そうだね、たしかに森で危険な生物といえば毒蛇だもんね」

「そうとも、蛇の毒が一般的にはいちばん脅威だからな」

「神経毒用? それとも出血毒用?」


「…………なんだって?」

「いやぁ、コブラみたいな神経毒に効くのか、マムシやハブみたいな出血毒に効くのか、それによって対処が変わるなあと思って」


「ま、まあ、このあたりにはコブラはいないから、し、出血毒用…だな……」

「そうなんだ! いやあ良かった。間違って使えば毒消しの意味がなさそうだったから心配だったんだよ!」

あんちゃん、いやに心配性だな。……なあ、ここだけの話だが、アンタみたいなやつにとっておきの薬があるんだぜ」

「それは本当か、オヤジ!」


「ああ、実は表には置いてないんだが『じょうやくそう』といってな、滋養強壮から疲労回復、毒消し、裂傷の治癒はもちろん、鎮痛、船酔い、睡眠薬までなんでもこなす万能薬だ。普通の道具屋にはおいていないもので、200Gとちょいと値は張るが、その効果はお墨付き。皆この薬を買いに遠くの国からもわざわざこの店にやってくるんだぜ、どうだい? 騙されたと思ってひとつ買ってみないか?」

「滋養強壮から疲労回復、毒消し、裂傷の治癒に鎮痛、船酔い、睡眠薬にもなるのか!?」


「ああ、これひとつあれば他の薬はいらないんだぜ。粉末にして飲むもよし、煎じて飲むもよし、乾燥させてタバコにしても効くんだからな」

「なるほど。で、その『上やくそう』ってのはこいつのことか?」


「……お、おい! アンタ。それをどこから……!?」

「店の裏のテントの中から拝借したんだが、いやぁ見事な大麻畑だったよ。オヤジ、この国では大麻は医療目的以外は合法じゃないって知ってるね」


「グッ……アンタ、ただの冒険者じゃねぇな、何モンだ? ま、麻薬取締官マトリか!?」

「あはは、そんなわけないよ。それならとっくに逮捕している。しかし、噂では聞いていたが、まさかこんな田舎の道具屋がクスリ売ってたなんてな」


「……た、大陸の方から知り合いを通していい薬があると聞いて仕入れただけだ……大麻なんて知らなかったんだよ」

「それは嘘だね。ちゃんとした大麻の栽培方法を学んでないと、あんなに見事な大麻畑にはならないからね。大麻の覚醒効果をさも、薬による治癒効果だと思わせて『上やくそう』として売るなんて、なかなか悪どいじゃないか。だが、素人が使う大麻なんて、しょせん非合法のドラッグでしかないね」

「まさかアンタの職業は……や、薬剤師なのか?」

「へぇ。おしいね。つい『あたり』といいそうになったけれど、薬剤師じゃないね。『やくざいし』だよ」

「や、やくざいし!?」

「そういうわけで、麻薬取締官マトリへの通報を免れたいなら、こいつら全部まとめて20Gで手を打ってやるよ。丁度、治療用の薬を探していたところだったんだ」


「……こ、この、ヤクザ医師ッ!!」



おわり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「オヤジ、ひのきのぼうをくれ」「180Gだ」「高ッ!!」 麓清 @6shin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ