エピローグ
4-1
後日。学校の食堂の一角に喜々とした表情の隼人達がいた。
目の前のテーブルには鉄板で熱せられた特大のステーキ定食。これこそ名物のスペシャルAランチである。
「それでは依頼達成の報酬……」
隼人が言って手を合わせる。残りの二人も手を合わせる。
「「「いっただきまーす」」」
フォークを突き刺して口に運ぶ。
「うっめ――っ!!」
隼人は目を輝かせて猛烈に食べ始めた。
悠馬は一言も発せず一口、一口噛みしめるように食べていく。
「肉が、お肉が、おいふぃ。おいふぃいです」
皐月に至っては泣きながら食べていた。
その様子を見て、真樹と垣内は面白そうに笑っていた。
「そんなに美味しい?」
真樹が尋ねる。
隼人は返事する時間すらないといった風に、食べながら首を縦に振る。
それからしばらく、隼人達はスペシャルランチを堪能した。
食後のコーヒーを飲んで一息つく。
「ふいーっ。食った、食った。いやぁ相変わらず美味い」
「前回より美味しかった。シェフの腕が上がってるな」
隼人と悠馬はしみじみと感想を言う。
「しばらく、お肉の思い出だけでご飯食べられますね」
皐月はうんうんと腕を組んで唸っていた。
「そんなに喜んでくれたなら、苦労して手に入れた甲斐があるわ」
壮絶な争奪戦を思いだして一瞬表情が陰ったが、真樹はにっこり笑って言った。
「今度、私も食べてみようかしら」
垣内は物欲しそうにしていた。
閑話休題。
真樹が話を切り出す。
「それで、これからお兄ちゃんってどうなるの?」
不安そうに尋ねる。
あの戦いの後、病院に運ばれた浪川史郎は意識不明のままだった。
隼人は正直に答えようかどうか迷った。
悠馬と皐月も思案顔になる。
少し考えて、正直に答えたほうが良いと判断して隼人は言った。
「体調が回復すれば、意識は戻る。その後は正式に逮捕されて裁判を待つ事になるだろう。悪喰特例法で減刑されても、今回は規模が大きいから、刑はかなり重いと思う」
その事実に真樹は顔を暗くする。
悠馬がフォローを入れた。
「そう暗い顔をするな。どれだけ刑が重くても生きてる。生きていればまたやり直せる」
「そっか。うん。そうだよね。お父さんとお母さんは見捨てるかもしれないけど、私は最後まで待つわ。お兄ちゃんが戻ってくる日を」
悪喰を倒せばそれで終わるわけではない。被害者も加害者も生きている限り、その困難は続いていく。
だからこそ隼人達は出来る限りのことをする。
テーブルの上に書類を出した。
「これは?」
真樹が尋ねる。
「悪喰事件の加害者の立場に立って支援してくれる団体の一覧だ。数はそこまで多くないが、信頼できるものを幾つかピックアップしてある」
真樹はその書類を受け取った。
隼人は言う。
「悪喰になった者もある意味で被害者だ。もちろんやったことは許されないし、償う必要がある。でも、それでも見捨てるわけにはいかない。君がお兄さんの事を支えてあげられるなら、この団体が君の事を支えてくれるはずだ。そうやって助け合えばきっと元通りになる」
真樹は隼人の気遣いに、ぽろぽろと涙を流す。
「うん。うん。ありがとう」
垣内が肩をそっと支えた。
「大丈夫。私もいるよ」
「うん。ありがとう。ありがとう」
隼人と悠馬は微笑む。
皐月はもらい泣きしていた。
「さて、俺達が出来るのはここまでだ」
隼人は席を立つ。
悠馬も立ち上がった。
「また、悪喰で困った事があれば事務所に来い。いつでも依頼を待ってる」
皐月が涙を拭いて笑顔で言った。
「今度はスペシャルBランチでお願いします!」
「アホか。食い意地張り過ぎだっての」
「太るぞ。皐月」
隼人と悠馬は呆れかえった。
真樹と垣内は笑って言った。
「本当にありがとう。私、頑張るね」
「皆の事、宣伝しておくね」
お互いに頷き合って、隼人達は立ち去る。
隼人は食堂を出てから伸びをした。
「さぁて。午後からの怠い授業を受けようかね」
「面倒だが、学生の本分は勉強だからな」
「私、この幸せな気分のまま居たいので早退します」
皐月の発言に二人は突っ込む。
「いや、お前は死ぬほど勉強しろ」
「今度の中間テストで赤点取ったら、地獄の勉強フルコースで行くからな」
「えー。先輩達だって、よくサボるじゃないですか!」
などとギャーギャー言い合いながら教室まで向かう。
すると電話が震えた。
「おっと、近藤さんか」
隼人は出る。
「はい。お電話ありがとうございます。煉城影狩り事務所です」
『俺だ! 近藤だ! 筑波町二丁目の大空公園に
悲痛なSOSだった。
よく聞くと電話の向こうで「ヒャッハー」だの「ギャー」だのと奇声と悲鳴が聞こえてくる。
「分かったすぐ行く!」
電話を切ると悠馬と皐月を見た。
「事件か? 隼人」
「いつでも行けますよ。先輩」
「筑波町の大空公園に邪欠泉が出来て、パーティー状態だそうだ。急ぐぞ!」
隼人は駆け出す。
「「了解!!」」
二人も駆け出す。
一つの狩りが終われば、また次の狩りへ。
この世には、人の心に巣喰う化け物がいる。悪意をばら撒き、心を喰らう。その化け物の名は「悪喰」。
これは、悪喰と戦う「影狩り」と呼ばれる狩人達の物語である。
了
影狩り-シャドウハンターズ- 沖彦也 @oki_hikoya
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