3-3
「GGGGGGGGGAAAAAAAAAAAAAAYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAA」
破壊衝動に任せて巨大なクモは暴れまわる。その動きは止まる気配がない。
隼人と皐月は障壁符を投げて、防壁を展開。悠馬は槍の翼を拡大させて壁を作る。
真樹を守りつつ、三人は何とか耐える。
このまま動きが止まるまで待つことも出来る。
しかしスタジアムを破壊しつくせば、次の標的に向かう可能性が大きかった。
なんとしてもここで仕留める。
三人の気持ちが一致。
「悠馬、皐月。足止めしろ。【切り札】を使う」
「承知した」
「了解です」
二人は了承。
巨大クモに立ち向かっていった悠馬は、相手の真正面に槍を構える。タイミングを合わせて跳躍。飛んでくる溶解毒を風で受けながら槍を引き絞った。
「ぐううう。でやああああああああっ」
風で受けても溶解毒の飛沫は降りかかる。体が溶かされる激痛に耐えながら、渾身の気合でむき出しの眼球を突く。
「GYIIIIIIIII」
急所を狙われて悲鳴を上げる。さらに悠馬は無傷の眼球を蹴りつけて、槍を引き抜き離脱。
その隙を逃さず、皐月は跳躍。右腕に装着した【撃鉄】の撃鉄が下りてリボルバーが回転。雷撃が拳に宿る。
「どっせいっ!」
思い切り振りかぶって右拳を相手に撃ち込んだ。
巨体、しかも鋼のように固い肉体を殴った影響で、右腕の骨がミシミシと悲鳴を上げる。
「らあああああっ」
続けて左足の【撃鉄】のリボルバーが回転。雷撃が左足に宿って、巨体に蹴りを見舞った。
稲妻が巨大クモの体を走りダメージ。
皐月は蹴った反動で間合いを離して着地。だが表情が歪んだ。
「痛ぅ」
蹴りつけた足に、ヒビが入ったような痛みが走る。
「GAAAAAAAAAAAAAAA」
巨大クモはもがくように暴れる。
「まだまだ、往くぞ」
相手の背後にまわって、狙いを相手の尻に定める。槍の先に力を集中させた。穂先に竜巻が宿って回転。槍が吼え猛る。
「トルネード・ショット!」
地面を蹴りだして突撃。疾風を纏って一直線に相手へと進んでいき、目標の尻に突き刺さる。ドリルのように回転した風が相手の肉体を抉りさらに深く突き刺さった。
「GYUAAAAAAAAAAA」
刺し口から緑色の体液が噴出した。
勢いよく槍を引き抜いて後退。
巨大クモはその着地場所に、尻を振り回して瓦礫のハンマーをブチ投げてきた。
「させるかああああああああああああ!!」
皐月はその動きを雷速の反応で対応。悠馬とハンマーの間に陣取り、裂帛の気合でその瓦礫の塊を受け止めた。
とんでもない鈍い轟音が鳴る。
「GIHI!?」
驚く巨大クモ。
そこには皐月が口から血を出しながら笑っていた。
「この程度、軽い軽い!」
ハンマーの一撃を耐えていた。
受け止めたハンマーを投げ捨てて、皐月は巨大クモの真下に向かって転がる。
クモの真下に潜り込めた。
「必殺!
皐月が咆哮して、拳の撃鉄が下りる。
雷撃を纏った鉄拳が、巨大クモに直撃した。
「GYAGAAAAAAAAAA!!」
巨大クモに稲妻が煌いた。
「オラオラオラオラオラオラオラ」
一回だけでは終わらず、皐月は連続で鉄拳と轟脚を見舞っていく。
反動で傷つくのを気にせず、痛みを乗り越えて、雷撃を拳を撃ち込んでいく。
一撃を喰らわせる度に、撃鉄が下りてリボルバーが回転。一億ボルトの雷撃が巨大クモに走る。
攻撃しながら、弾切れしたリボルバーに再装填。連撃を途切れさせず次々とブチ当てる。
エネルギーを溜める工程がなく、弾が続く限り強烈な一撃を喰らわせられるのが、【撃鉄】の最大の特徴だった。
「これで、ラスト!!」
右拳を突き上げて渾身の鉄拳を打ち込んだ。
そのまま転がって退避。
巨大クモから煙が上がり、崩れ落ちた。
悠馬と皐月は距離を取った。
「隼人。後は頼むぞ」
「隼人先輩。決めちゃってください」
二人は振り向いて仕上げを隼人に託す。
「すううううううううううううううううう」
深く息を吸って、隼人は刀を構える。彼の体が発熱する。
隼人の切り札が発動しようとしていた。彼の周りは陽炎のように揺らめいている。
「往くぜ。【
気合一閃。体を爆炎が包み込み、手にした刀は真っ赤に光り輝く。
そして走り出した。踏みしめた地面は焼けて炎上。それはまるで炎の道のように伸びていく。
巨大クモは槍で体を刺され、電撃で焼かれてもなお起き上がり、隼人に攻撃する。針毛と同時に毒液を吐き出して急襲。
しかし、今の彼にそんな攻撃は無意味だった。
飛んできた針毛は熱で焼けて消し炭になる。飛ばしてきた毒液は蒸発した。
「GGGGGGGGIIIIIIIIIIIYYYYYYYYYYYYAAAAA!!!」
クモが悔しそうに鳴く。
隼人は、ただひたすら真直ぐに相手へと突き進み、距離を縮めて必殺の間合いに入った。
「
叫んで、灼熱の刃を振りかざして跳躍。
掲げた刀が高熱を発する光の刃となって天を突くように伸長する。
「喰らえ!
一気に刀を振り下ろして巨大クモを両断した。
それは斬るというよりは、焼き斬る。強烈な断裁の音と共に、相手の体が真っ二つに割れる。さらに両断された断面から炎が噴き出て相手を焼いていく。
「GGGGGGGGIIIIIIIIIIIYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
巨大クモは紅蓮の炎に包まれながら断末魔を上げた。炎は相手の邪気を燃料にして一層燃え上がる。
黒々とした体毛が燃えて、八個ある目が白く濁っていく。体液が沸騰して紫色の蒸気を上げる。
「G、GIGIGI……」
やがて、体を構成する組織が崩れていき絶命した。
燃え盛る炎が鎮火して、丸焦げになった巨大クモの死骸が現れた。
灰になった体が風によって崩れていく。最後に残されたものは黒い種。その種が割れると、中から白目をむいて泡を噴いている浪川司郎が飛び出してきた。
相手が消滅したのを確認すると、隼人の体を包んでいた炎が鎮火。赤熱していた刀が黒くなっていき煙を上げる。そして彼の口から白煙が吐きだされた。
「ぶはああああああああ。痛てて、全身が痛てぇ」
激痛でへたり込む。爆熱真紅の欠点は、使用したあと全身が極度の筋肉痛になることである。今、まさに全身に筋肉痛が襲い掛かってきていた。
「おつかれさん。隼人」
槍を肩に担いで悠馬が、悶え苦しむ隼人に駆け寄る。彼は彼で、溶解毒を浴びて、あちこち爛れていた。
「先輩、ナイス必殺技」
皐月はにっこり笑う。両腕、両足は巨体を殴って蹴った影響で骨が折れていた。
「お兄ちゃん!」
真樹は倒れ伏している司郎に駆け寄る。
「しっかりして! お兄ちゃん!」
惨状に驚いて叫ぶ。
「大丈夫だ。闇狩人協会の病院に搬送すれば助かるだろう」
悠馬がフラフラしながら歩いてくる。
その時、サイレンが鳴り響き、警察が到着した。
近藤が目の前に広がる惨状を見てため息を吐く。
スタジアムのあちこちが腐食して煙を出し、客席は砕け、隼人の火炎で火災が発生していた。
近藤はへたり込んでいる隼人の傍にやって来る。
「また、派手にやったな」
「仕方ねぇだろ。悪喰が暴走体になって大暴れしたんだから」
「そうか。それを倒したんだから、さすがだ。で、浪川は?」
隼人は刀で指し示した。
「あそこで気絶している」
「よし、連れて行け」
近藤は部下に命じて浪川を運び出した。
その搬送に真樹も付いて行く。
「さて、では俺たちは帰るか」
悠馬が槍で肩を叩きながら戻って来た。
「だな。後は警察に任せよう。そんで俺達は……」
隼人は刀を杖代わりにして立った瞬間。
「ゲボホェ」
吐血した。
「きゃーっ。先輩、大丈夫ですか!?」
皐月が驚いて叫ぶ。
「へっへっへ。大丈夫じゃねぇ。全身痛いし、爆熱真紅の影響で内臓にダメージが来てる」
「急いで病院に直行ですね」
皐月が体を支える。
「やれやれ。また治療で金がかかるな」
悠馬はため息をついて隼人に肩を貸す。
「でも事件を解決して、依頼を達成したから万事オッケーですよ」
そして、そのまま歩いていく。
「いてて。悠馬、もう少し丁寧に扱え」
「やかましい。キリキリ歩け」
隼人の体を思い切り引っ張る。
「んだとコラ。こっちは切り札使ってボロボロだってのに」
「どこがボロボロだ。お前ほとんど一撃しか放ってないだろう。俺のほうがあちこち爛れてひどいぞ」
「まぁまぁ、怪我人がケンカしても良い事ありませんよ」
三人は言い合いしながら去っていく。
「そこに救急車が来てる。気を付けて行ってこい」
近藤はその後姿を見送る。
そして報告される被害の現状に頭を痛めた。
「ったく。あいつ等、もう少し丁寧に戦って欲しかったなぁ」
苦笑した顔でぼやく言葉は、風に乗って流されていった。
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