3-2
「さぁ! 狩りの時間だ!」
隼人は獰猛な笑みを浮かべて宣言。
「グオゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
クモ男は雄叫びを上げると向かってきた。
「散開!」
隼人の号令で、三人は散る。
地面を蹴って反動をつけると、悠馬が仕掛ける。
「むううううん」
突き出された槍は空気を貫いて高速で強襲。その一撃をクモ男は跳ねて回避。
距離を取った瞬間、クモ男の口から糸が飛び出て悠馬を絡めとった。
「くっ」
「悠馬っ!」
飛び出した隼人が糸を切って、悠馬は脱出。
隼人は返す刃で火炎を噴射。牽制しつつ、距離を詰めて、相手の腕を切り落とそうとした。
しかし、それをクモ男が爪で挟んで防ぐ。
「上等だ!」
犬歯を見せて叫ぶと刃が炎を纏う。これこそ、隼人の持つ武器【煉獄】の真骨頂。火炎を纏う灼熱の刀。隼人はクモ男に向かって連撃を叩き込んだ。袈裟切り、切り上げ、さらに左右に切り裂く。その乱舞に炎が舞い飛び、戦闘用コートがはためく。
「ギイイイイイイイイイイイ」
奇声を上げてクモ男は、それを六本の腕で全て捌いていく。だが、斬撃は防げても、焼け付く刃は防げない。灼熱に炙られていく。
「グギギギギギギ」
堪らず伸縮性の糸を吐いて緊急離脱。後退して体勢を整えようとするが、背後には皐月が待機していた。
「はああああああ」
右拳のリボルバーが回転。装填されていた弾丸が弾けて、雷撃を拳に宿す。
「でぃやっつ」
裂帛の気合で相手の背中を殴り飛ばした。
轟音と共に地面をバウンドして転がるクモ男。六本の腕と二本の足を器用に動かして受身を取る。
「ギリギリギリギリギリギリ」
牙を鳴らして威嚇。限界まで息を吸い込むと隼人たちに向かって吼えた。
「キュリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」
その高音は大気を震わして、周りのガラスを破壊。地面がひび割れる。
「ぐぉ!」
「っつ」
「くぅ」
耳をふさいで耐える。
「真樹さんはっ」
隼人は離れた場所にいる彼女の安否を確かめる。
巻き込まれた真樹は障壁で何とか無事だった。
「隼人! 気を付けろ!」
悠馬が叫ぶ。
クモ男は尻から糸を大量に吐いて、スタジアム全体にクモの巣を張った。
クモの糸を移動して空中に浮かぶ。
「ギャヒイイイイイイイイイイイイイ」
口から毒液を吐いて攻撃してきた。
それは連続で絶え間なく降り注ぐ。
隼人達は何とか避けて防いで耐える。
だが腐食性の毒らしく、戦闘用コートを焼いて溶かしていく。
「この、やろ! うわっと」
毒液が隼人の頭を掠める。
「悠馬先輩、何とかして下さい!」
皐月が叫んだ。
悠馬は槍を振り回す。
すると竜巻が起こって毒液を吹き飛ばす。
さらに彼は槍を投てき。槍の先に付いている龍の翼が広がって、まるで本物の龍の如く縦横無尽に駆け巡る。そして周囲に張り巡らされたクモの巣を切り裂いて破壊していく。
悠馬の狙いに気づいた隼人は慌てて真樹の元まで駆けていった。
それと同時に、暴れる槍はクモ男が糸を吐いて絡め取った。
「ギリリリリ」
口が裂けて笑みを浮かべる。
「アホが。それが狙いだ」
悠馬が獰猛な笑みで返す。
絡め取られた槍から風が渦巻く。
「ギヒ?」
首を傾げるクモ男。
その次の瞬間、槍から激烈な暴風が巻き起こって、スタジアムの中に嵐を召喚。
これが悠馬の槍【ナイトウィング】の力。風を操り、嵐を起こす。吹き荒れる風はスタジアムの割れたガラスや、砕けた瓦礫を巻き込んで暴れ回る。
嵐の中心にいたクモ男は暴風に捻じられ、ガラスや瓦礫で傷つき、地面に叩きつけられた。
嵐が去ると、悠馬は飛来した槍をキャッチ。
「ギ、ギ、ギ」
クモ男は全身の腕や足、頭があらぬ方向に折れ曲がって、ボロ雑巾のような塊になっていた。
「あっぶねー。悠馬! 依頼人も居るんだからもう少しソフトにやれ!」
障壁だけでは足りないと判断した隼人が、暴風から真樹を守っていた。
皐月は暴風に巻き込まれて目を回していた。
「お前なら気づくだろ。それに何とかしろと言ったのは皐月だ。文句なら皐月に言え」
悠馬は悪気など一切ないと鼻で笑った。
三人は集まると、クモ男と再び対峙する。
「まぁ、これで決まりだな。仕留めるぜ」
弱り切ったクモ男に近づいて仕留めようとした。
「シネ、な、イ。シニたく無い。マダたた、カえ、る」
虫の息で呟いていた。
それに応えるように、傷ついた体が脈動する。
様子がおかしい。
クモ男の体から邪気が溢れ出していく。
「これは……!」
隼人達は武器を構えた。
何かが起こる。それも特大の厄介な何かが。
三人とも最大級の警戒で迎え撃つ。
そしてそれは起こった。
「GGGGGGGGGGGGGGGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
あり得ない声で叫んでクモ男の体が爆発的に膨張。肉の塊となってさらに膨れ上がる。
二階建ての建造物ほどの大きさになった肉塊から、毛むくじゃらの巨大な足が生えだす。さらに肉塊がうねって形が変わり、巨大なクモの形になった。
頭らしき部分に九つの亀裂。八つは赤い目になって、最後の一つは牙を生やした口に変じる。
目の前に現れたのは巨大なクモ。
「GGGGGGGGIIIIIIIIIIIAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
空に向かって咆哮した。
「こ、これは暴走しやがった」
隼人は冷や汗を流す。
暴走体。それは何らかの要素が悪喰の体に影響を及ぼして巨大化することである。理性は無く、破壊衝動のみで活動して、周囲にある物を全て破壊していく。
「最悪の展開だな」
追い詰めすぎたのが悪かったのか。若干、悠馬は悔いた。
巨大クモは足を動かして、行動を開始。
口から毒液を吐きだして周囲を溶かしていく。
飛んでくる毒液を回避して、隼人達は反撃しようとした。
しかし、針のような体毛がマシンガンのように発射されて二の足を踏んだ。
さらに尻から糸が出て瓦礫に付着。それを巨大クモは器用に尻を振って、ぶん回してきた。
ハンマーのようにあちこちを破壊して、さらにその破壊された破片が糸にくっ付いて、より大きなハンマーになって襲い掛かってくる。
隼人達は回避に専念。
毒液に針毛のマシンガン、そして瓦礫のハンマー。その巨体を駆使して暴れまわる。
毒液で辺りが溶解。針毛で周囲を破壊して、瓦礫のハンマーがスタジアムを解体していく。
「GGGGGGGGIIIIIIIIIIIYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
隼人達には目もくれない。目の前にある物を破壊するだけの怪物だった。
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