第6話 結婚

○ 三日後、合同結婚式場


  花嫁衣裳に身を包んだ楊小雪たちと礼服姿の花婿たち。

しかし出席者たちはまったくの普段着、平服だ。

司会者とカメラマンがいるのは日本と変わらない。

杉山「ええこと教えたろ。女は乳がでかいほど優しいんやで」

倭「いまさら教えられても……」

藤井「いえ参考になります」

杉山「ほう、あのコギャルがごっつベッピンさんになって、まぁ」

  藤井の花嫁はアイドルも顔負けの美女に変身していた。

倭「魔法でも使ったの?似合いのカップルだよ」

藤井「記念写真を撮ったとき正しいメイキャップを教えてもらったみたいです」

倭「きのうは撮影で一日つぶれたからね。中国は写真に気合いれすぎだろ」

藤井「その前は一日中役所めぐり」

杉山「そのドタバタも今日で終わりや」

  杉山は倭、藤井と肩を組んだ。


  荒々しく結婚式場の扉が開かれた。

  そこに現れたのは恐ろしい形相をした大柄な男だった。

倭「なんだあいつは」

  とっさに楊小雪をかばう。

楊「パパ!」

倭「パパってまさかお父さん」

林「倭さん、楊小雪さんのお父さんは結婚許さないで怒てるです」

倭「このタイミングで言われても」


  楊小雪とその家族が説得しているが興奮はおさまらず拳を倭にむけた。

式場が歓声に沸く。

林「勝負しろ。勝たら娘やる、約束、イてます」

倭「いきなりバトル展開って少年ジャンプじゃあるまいし」



杉山「がんばれ倭!」

藤井「倭さん負けるな!」

楊「加油ジャーヨ!」

  楊小雪までもキラキラと期待に瞳を輝かせて応援している。

倭「くそ、お祭り騒ぎじゃないか」

  すでに父親は太極拳のような構えをとっている。

倭「ええい、もうヤケだ」

  上着を脱ぎ捨て相撲の四股を踏みはじめる。


  父親が酒瓶をあおる。

杉山「おっとこれは酔拳か!」

藤井「かたや日本の国技相撲!どちらが勝つのか?」

  巨漢にしては素早い千鳥足で間合いを詰めてくる。

倭「ひぃ!死んだかも」

  巨体がせまり中国に来て二回目の走馬灯が回りそうになる。

杉山「あかん、また気ぃ失いかけとる」

  ふっと意識が飛んで頭部が落ち、その上をパンチが通過する。

  さらに倭の足につまづき勢い余ってつんのめる。

  止まることができずひな壇に突っ込んでいってしまう楊の父。

藤井「いやはや、お父さん飲みすぎですね、これは」


  倒れたまま散乱したユリの花を一輪さしだす父親。

林「お前の勝ち。娘やる、です」

  林が通訳するまでもなく父親の気持ちはつうじた。

  楊小雪が倭に抱きついた。


○ 五ヵ月後。日本の空港


倭「やあ、ごぶさた」

杉山「五ヶ月ぶりかな?」

藤井「みなさんお元気そうで」

  再び空港に集う三人。


入国ゲートの前で待ち構えている。

倭「中国の正月がすぎてやっと来日ですね」

杉山「長かったー」

藤井「待ちくたびれました」

倭「いよいよ嫁たちと再会ですね」

杉山「おっ、出てきたで」

藤井「わぁ!」

  藤井がその花嫁と抱き合う。

杉山「わしのオッパイちゃん!」

  続いて杉山夫妻だ。


  じりじりと自分の番を待ち続ける倭。

  そして楊小雪が現れた。かたい表情だ。

倭「楊小雪」

  叫んで上げかけた腕が途中で止まった。

  楊小雪のスカートの裾をつかんで5歳ぐらいの少女がついてきたのだ。

  倭は言葉をうしなっていた。

杉山と藤井も事態を飲み込めずにいた。

紅「こんにちは。わたしの名前はホアンです」

  少女は律儀に日本語で挨拶をしてお辞儀した。

  言い間違えなかったかカンペを確認する。

紅「えへへ」

  にっこり笑った前歯は2本抜けていた。

  倭もつられて笑顔をかえした。

倭(林、あのペテン師め、子供は女親がひきとってるじゃないか)

  紅を抱き上げる倭。

倭「こんな可愛い子がいるならはやく教えてくれよ」

  倭の応対に楊小雪の口元がようやくほころんだ。

二人「我爱你ウォアイニー

  倭と楊小雪は同時に口にした。


終わり

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