第5話 会食

○ ホテルの食堂


  大皿に盛られた料理をウエイトレスが運んでくる。

倭「おいしい、好吃ハオチー

  食べては覚えたての中国語を連発する。

  花婿の隣ではかいがいしく花嫁たちが料理を取り分けている。

杉山「林さんこの料理はなに?」

林「あー、それはイヌニク」

 倭の咀嚼する口があんぐりと開いた。

倭「イ・ヌ・ノ・ニ・ク?」

林「イ・ン・ノ・ニ・ク」

倭「え?え?え?」

 杉山と藤井はパニックに陥りいまにも吐き出しそうに青ざめている。

林「イヌ?」

倭「イヌ」

林「イ・ノニク」

  林は胃のあたりをしめす。

杉山「なんや胃袋かいな。びっくりしたわ」

  杉山がほっと胸をなでおろした。

林「狗肉は楊さんのね」

  楊小雪が倭の皿に取り分けている料理を指差した。

倭「うえ!」

藤井「やっぱりイヌの肉あるんだ。あ、もしかしてホテルの前で売っていた仔犬って?」

林「はい、食べるのイヌです」


杉山「わしまだ食べとらん。セーフや」

藤井「ぼくもセーフ」

倭(どうする、いまならセーフだけど、セーフだけど)

  固まって動けなくなる倭。

  凝然と見つめる倭の視線に気づいた楊小雪が微笑した。

  あろうことか狗肉を箸で倭の口に運ぶ。


倭「バカヤロウ!犬の肉が食えるか!」

 箸を払いのける倭、という妄想をうかべる。


倭(だめだそんなことはできん。許せ、タロ、ジロ。おれは嫁をとる)

  倭は涙をのんで狗肉を口にした。

杉山(倭さん、あんたは男や)

  妙な感動をおぼえる杉山だった。

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