第4話 初夜
○ ホテルの客室前通路。
倭「もしかしていきなり同室」
6組のカップルがたむろしている。
杉山「そうらしい。はは、照れるわ」
右手にルームキー、左手に巨乳の花嫁をぶら下げた杉山は喜色満面だ。
花嫁を伴って入室する倭。
倭「中はさすがにきれ……いっ!」
バスルームを見て愕然とする。
倭(風呂がガラス張り?ここは中国のラブホかよ?林さんなんてホテルをとってくれたのさ!)
楊小雪が恥ずかしそうに寄り添う。
倭(明日6人の花婿たちは瀋陽にある日本領事館に行き、そのまま杉山さん、藤井くん、自分たちの三組は相談所の林さんに同行され隣の吉林省長春に移動する予定だ。花嫁の出身地で手続きするらしい。ほかの花婿たちは現地ガイドとこのまま……)
ベッドに腰掛けスマホでメールを打ち込んでいる倭。
顔を上げちらりとシャワーの音がするバスルームを見やる。
湯気にかすんだ楊小雪のシルエットに心臓がはねる。
ノックの音が響いた。
倭「はい」
ドアを開けるとそこには藤井がおどおどとした笑顔を浮かべていた。
○ ホテルの喫茶スペース。
倭、藤井、杉山の三人が顔をつきあわせていた。
倭「童貞?」
藤井がこくりとうなずく。
杉山「藤井くん何歳?」
藤井「30……」
倭「魔法使いだ」
杉山「え?」
倭「30歳まで童貞だと魔法が使えるようになるって都市伝説」
杉山「アホらし。それでAVぐらいは観たことあるやろ」
藤井は顔を横にふった。
杉山「あちゃー」
倭「どこの国の話だ」
藤井「その……家が厳しくて」
杉山「まわりの大人はなにを……プッ!30なら本人も大人か」
自分のボケに吹き出す杉山。
倭「杉山さん笑い事じゃないですよ、これから初夜なんだから」
杉山「おおスマンかった。で、キスぐらいは……きくだけ野暮か」
ますます小さくなる藤井だった。
倭「まず図解するとですね」
藤井「はい」
杉山「エグ、いや達者やないか」
小さなテーブルで大の男が3人額をつきあわせる。
倭(こうして瀋陽の夜はふけていった……送信っと)
○ 翌日、長春。
駅に降り立つ疲れきった倭と杉山。
倭「やっと長春に到着か、もう日没だよ。疲れた」
杉山「列車の移動がこんなにしんどいとは」
藤井「地平線なんて初めて見ましたよ」
ずいと歩み出る藤井。胸を張って堂々とした男の顔がそこにあった。
あっけにとられる倭と杉山を尻目に力強い足取りでカートを押していく。
その腕に絡みつくコギャル風中国妻。メロメロといった風情だ。
倭「彼ひと皮むけましたね」
杉山「どこの皮か知らんけど」
苦笑する二人だった。
長春をそぞろ歩く一行。日本人と中国人に分かれている。
倭「瀋陽ほどじゃないけど長春も大きいですね」
杉山「そして建設ラッシュ」
藤井「おまけにナンバーのない自動車」
藤井が指差す。
倭「かんべんしてくれ、事故の悪夢が」
デパートなどビルディングの街並みに同居するように路上で店を広げる人たち。
靴紐やゴム紐といった日用雑貨から果物、自販機代わりに飲み物だけを売る老女。
楊「好可爱啊」
仔犬を売っている子供たちの前で楊小雪たちが足を止めた。可愛いいとかいっているようだ。
倭「お、かわいい仔犬」
しゃがんだ楊小雪に話しかける。
倭「犬は好き?」
楊「嗯」
なんといったかはわからないが前日よりは打ちとけた笑顔がかえってくる。
倭「ぼくも大好きだよ」
そんなようすを後ろから眺めている林。なにか考えるところがあるようだ。
林「ここホテル。今日は食べて寝る。明日は忙しいネ」
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