6、あなたの瞳に恋してる

私の好きな人は青紫ヴァイオレットの瞳を持っている。

といっても、ジッと覗き込んでやっと「光の反射で紫っぽくも見えるなあ」といったものだけれど。

切れ長で、男のくせに長い睫毛に縁取られたキレイな目は、私に向かって三日月になって見つめてくれる。そして優しい落ち着いた声で「ご注文はどうなさいますか?」って声をかけてくれる。


「モースティのパンと、レモンティーください」


私はいつもこのセットを頼んで、ハルさんが準備するのを眺めてる。

今日のシャツはダークグレイだなあ、似合ってるなあとか観察もする。


やがて私の座っている暗い飴色のカウンターにレモンの浮かんだ紅茶と、まん丸で中心にモースティウッドの花の塩漬けがのったパンがやってきて、私はそれをゆっくり食べるんだ。

この時間は大抵犬人族クーシーのお姉さんが窓際で本を読んでいるくらいしか人が居ないので、ハルさんをひとりじめ。


「ハルさん、モースティのパン今日も美味しい」

「ウチの看板メニューですからね。気合い入れて作ったんだ。お口に合ってよかった」


薄緑色の餡がたっぷり入っているこのパンは、ほんのり甘くてほんとうに美味しい。花の塩漬けがのっているのも可愛くて、塩味がアクセントになって、ハルさんはこんなパンを作れて天才なのかもしれない。


こんな人の彼女になれたらなあ……。きっと毎日が楽しくて仕方ないだろう。そのうち、一緒にこのお店のカウンターに立っちゃったりして……!


これは夢だ野望だ。こんなキレイな人と共に過ごせるならどんな障害でも乗り越えてみせる。まずは夢に近づく第一歩、


「ハルさんは彼女いますか?」

「かの……?んーと恋人はいないよ」


よっしゃきた!とりあえずきた!現時点で彼女が居ない幸運。これは押して押して押すしかあるまい。

時間はお昼を少し過ぎたくらい。柔らかい日差しが天窓から注いでハルさんのブラウンの猫っ毛を暖めている。

犬人族クーシーのお姉さんは居るけど、こんなに雰囲気の整っている時もそうないだろう。なによりハルさんが何もせずただカウンター裏に座ってボーッとしていることなど早々ない。


これはするしかないだろう。


「ハルさん!!」

「えっ、あ、はい」

「好きです!付き合ってください!!」


言った、言ったぞ。

ハルさんは驚いたような顔をして「ええ……どうしよう」なんて少し困っている。これは少し時間をあげたほうが良いのかも。


「あのハルさん……」

「あのねリットちゃん、その、もしかしたら勘違いしてるかも」


どうやらハルさんは私が気の迷いで告白していると思っているらしい。

どんな言葉がきても前向きに返そうと身構える。


「何も勘違いしてないと思いますけど、なんですか?何でも言ってください!」

「えっと……その、あの、私、女です……」

「…………は?」


背後で誰かが噴き出した。

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