〈Level18:合わせて合わせてワールズピント〉

EXP18

娘「ただいまー」


ドラゴン「おう、おかえり娘」


子ドラゴン「キュー!」


ドラゴン「毎日毎日、隣町まで大変だな」


娘「ううん、そんなに大変でもないよ。空間跳躍の魔法石のおかげでね。今日は帰りに青年さんのとこ寄ってきたから……ほら、アップルパイ」


子ドラゴン「キュー!」


ドラゴン「もうすぐ春だぞ……一年もよく飽きないな」


子ドラゴン「キュー」エッヘン


娘「まぁ、まだ寒いけどね……焚き火はまだまだありがたいよ」ボウッ


ドラゴン「そういえば、娘がいないうちに町から来た人間がそれを置いていったぞ」


娘「それって……この箱……?」


カパッ


娘「わぁ、お肉だよ、お肉。お魚は大丈夫だけど、流石にまだ動物は捌けないから嬉しいなぁ」


子ドラゴン「キュー!」キラキラ


ドラゴン「一年でいろいろなものが様変わりしたな」


娘「……ほんとにね。町の人がここに来てくれるなんて考えられなかったもの」


ドラゴン「それを届けた人間は未だに俺のことを恐れてたけどな」


娘「やっぱりまだドラゴンに普通に接してくれる人は少ないかぁ……」


ドラゴン「まぁ、しかたない。……遥か昔に覚悟していたことだ」


娘「なかなかうまくはいかないものだね」


  ◆


娘「あっ。そういえばアップルパイを受け取ったときに言ってたけど、青年さんと少女ちゃん、明日こっちに来るってさ」パクパク


ドラゴン「本当によく来るなぁ……」パクパク


娘「他の人もみんなあの二人と同じくらいフレンドリーに接してくれると嬉しいんだけどなぁ」


ドラゴン「それはそれでうざったいぞ」


娘「……確かにそうかも」


子ドラゴン「キュー!?」キラキラパクパク


娘「うんうん、アップルパイも持ってきてくれるよ」


子ドラゴン「キュー!」


ドラゴン「子ドラゴンはアップルパイとあの二人、どっちが目当てなんだ?」


子ドラゴン「キュー……」ウーン


ドラゴン「悩むのか……」


娘「可哀想だね……」


…………


兵長「……よう」


娘「わっ、珍しいお客さんですね」


兵長「こいつぁ手土産だ」


娘「なんですか……これ?」


兵長「城で作っている土産物のひとつでな。……ドラゴンクッキーだ」


娘「……わぁ、子ドラゴン型だ」


子ドラゴン「キュ!?!?キュー!!!!」キラキラ


兵長「うちの町でドラゴンをマスコットキャラクターにできねぇかと画策していてな」


娘「いいですね、それ」フフッ


兵長「だろ?」ヘヘッ


ドラゴン「そういえば、礼を忘れていた。あの節はありがとう」


兵長「あぁん?オレぁなんかしたか?」


ドラゴン「……わざわざ逃がした兵を城に再突入させてくれただろう?」


兵長「……あぁ、そうか。あんなんでも一応城の外でオレがやったことを全部見てたんだったな」


ドラゴン「あぁ」


娘「兵長さん、そんなことまで……」


兵長「あれは兵のやつらがあぁしてぇって言ってただけだ。オレぁそれを許可しただけだよ」


娘(ふふっ……嘘つき)


兵長「おかげさまでオレが次の町長にさせられそうになっちまったけどな」


娘「そういえばナンバー2だって男さんが言ってましたね」


兵長「男? そういやあいつ、あれ以来見てねぇな……何者か全くわからんがあんときに火事場泥棒が入ったらしくてな。倉庫にあった宝物の類いがごっそり消えてたんで、そいつの責任を俺と俺の兵達の警備責任として俺の昇進をトントンにさせてもらった」


娘「トントンって……兵長さんは町長にはなりたくないんですか?」


兵長「オレには今の仕事が一番柄に合ってんのさ。お偉いさんにはなれやしねぇよ」


娘「お偉いさんって、もう兵長さんは十分に偉いんじゃ?」


兵長「オレぁ普通だぜ、普通。兵を束ねちゃいるし、それのせいでナンバー2だなんて言われるがんなこたぁねぇ。オレには城に籠って難しいことを考えるなんてこたぁ、できそうにねぇ」


兵長「あの町長ですら道を誤るんだからな。オレならどうなることやら」


娘「……ひどい人、でしたね」


兵長「でも、理想は間違っちゃいなかったんだ。……方法を間違えただけで、な。オレにはその"理想"ってのが足りないのさ。今に満足しちまってるからな」


娘「それで、その、町長さんは」


兵長「ずぅっと、捕らわれたままだ」


娘「今も……?」


兵長「あぁ。老い先も短いだろうしわざわざ裁くこたぁねぇだろ、なんて言っちゃあいるが……やっぱり皆、町長を裁くのに抵抗があるんだろうよ」


兵長「なんせ、先代の町長から二代に渡って親子でずっとこの町を治めて、ずっとこの町を見守り続けていた人だからな」


娘「すごく、慕われていたんですね」


兵長「オレ達が見ていた町長が"勘違い"なのだとしたら、それは……」チラッ


ドラゴン「……?」


兵長「……ソイツに向けられたものと似たようなもので、全く反対のものなんだろうな」


娘「どんな勘違いも、正すのはずっと難しいんですね」


兵長「オレには町長を処刑してしまうのが正しいのか、このままほっておくのが正しいのかなんてわかりゃしねぇけどな」


娘「私は……」


娘(私は……どうしてほしいんだろう)


兵長「騙されてきたオレ達町民」


兵長「迫害され続けたドラゴン」


兵長「確かに皆が皆、被害者だろう」


兵長「……でもな。一番の被害者はオレ達町民でもなく、そこのドラゴンでもなく、家族を奪われ、これまでの人生を屋敷に閉じ込められたお嬢様、お前さんだ」


娘「……」


兵長「たぶん皆、そう思ってる」


娘「私は……町長さんを殺してくれ、なんて、思えません」


兵長「……そうか」


娘「お父さんやお母さんが殺されたっていうのも……お父さんやお母さんがずっとずぅっと昔の存在のように思えて、いまいち実感が湧かなくて……」


兵長「何か、町長に伝えておくことはあるか?」


娘「……いえ、何も」


兵長「……そうか」


兵長「オレぁ別に町長の肩を持つわけでもあんたの肩を持つわけでもねぇんだが」


兵長「俺達がドラゴンを勘違いしていたように、俺達が町長を勘違いしていたように、町長はきっと世界を勘違いしていたんだ」


兵長「勘違いをしながら、迷いながら前に進むのが人間ってんなら町長もきっとその一人だったんだろう」


…………


娘「ねぇ、ドラゴン」


ドラゴン「……なんだ?」


娘「町長さんのこと……怒ってる?」


ドラゴン「……それなりには、な」


娘「殺したいくらい?」


ドラゴン「……もう、何かを殺したいとは俺には思えん」


娘「そっか。……そうだよね」


娘「ごめん、ちょっと行ってくる」ダッ


ドラゴン「……おう」


子ドラゴン「キュー?」


ドラゴン「……俺達は寝るか」


子ドラゴン「キュー……」


娘「へっ、兵長さーんっ!」ハァハァ


兵長「……ん?どうした?忘れ物か?……って、あっ」


娘「あっ!あのっ!」ハァハァ


兵長「とりあえず息を整えろ」


娘「……すみません」ハァハァ


…………


娘「町長さんは……そのまま、生かしてあげて、ください」


兵長「……ふむ」


娘「確かに、お父さんやお母さんを殺されて、大好きなドラゴンをあんな目に遭わせて……まだ、誤解も完全には解けなくて」


娘「殺したいくらい、憎いかもしれません」


兵長「……では、何故?」


娘「殺したいくらい憎くても、やっぱりそれは私の中の町長さんでしかないから」


娘「やっぱり……どこか、私も勘違いしているかもしれないから」


娘「町長さんにお伝えください。……"私はあなたと違ってドラゴンより恐ろしい人も、殺そうとはしませんよ"……って」


兵長「かっかっか。皮肉だな。確かに仰せつかった。……あぁ、あとこれを渡し忘れるところだった。忘れ物だ」


娘「あっ、これ……ガラスの靴」


兵長「我が城には王子様はおらんのが残念だな」


娘「……いえ、ありがとうございます」ギュッ

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【SS】娘はドラゴンに生け贄として差し出されたようです。 ゆきの @yukiny

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