第21話 旅立ち
目指すは名蛾野県と決まった。
だが出発するまでに、俺達は丸一日を費やしてしまっていた。
装備は完成していたし、すぐにも出発したかったのだが、館長達と、今後の行動について、様々な議論を交わしておく必要があったからだ。
館長の……いや、イナヅ人達の言い分の殆どは、俺達三人が『イナヅマン・チーム』として活動する上での注意事項であった。
やれ行政とは関わるな。
一般人はもちろん、現地のヒーローにも正体を知られるな。
バレないように変身時のお約束、決めポーズは変えて、決めゼリフにもイナヅマンの名は入れるな……とまあ、うるさいことこの上ない。
表向きはどうあれ、枇杷湖の異常水位と翅蛾県での事件は、ヒーロー界ではビッグニュースだ。
そんなセコい小細工したって、すぐにバレそうなもんだと思うんだが。
しかしまあ、館長や
彼等の真の目的は、この地球を侵略することなのだから。
俺達もまったくもってややこしい立場になったモンだ。とはいっても、今の俺達には彼等の力が必要なのだ。
一番もめたのは、変身後の名称だった。
俺はイナヅマン一号、二号、三号でいいんじゃないかと言ったのだが、おまつさんは断固としてそれに反対した。
「それじゃあ何? あたしが二号ってわけ? 絶対イヤよ!! まるであんたの二号さんみたいじゃない!!」
おまつさんの性格からして、名称なんかにそこまで拘るとは思わなかったのだが。
その時、おずおずと手を上げたのは小鮎ちゃんだった。
「あの……じゃあ、
色……って、おまつさんはピンクで小鮎ちゃんがブルー? っと思ったが、小鮎ちゃんはそんな単純ではなかった。
「おまつさんは、赤っぽいし火を使うからイナヅマン・フレイム。私が水色だからイナヅマン・アクアでどうですか?」
なるほど。それなら悪くない。
おまつさんも、満更ではない様子だ。
「いいわ。それで。でも……私達だけじゃ不公平だから、あんたも……そうね。色が黄色っぽいし、武器が電撃系だからゴールデンサンダーボルトって付けなさいよ」
イナヅマン・ゴールデンサンダーボルト!? いやいやいやいや長いッス!!
「何? 不満だっての!? あんただけただのイナヅマンだと、私達がなんかニセモノみたいじゃない!!」
「まーまーまー。そんな名称なんかどうでもいいんじゃないかね? 我々としては、あまり大声で名乗って欲しくないわけだし」
「冗談じゃないわ!! 名乗りもあげないヒーローなんて聞いたことないわよ!!」
名乗り上げにも、妙にこだわりがあるようだ。
館長の一言に、ついにキレて怒り出したおまつさんをなんとかなだめ、結局、俺の名前はフツーにイナヅマンということで落ち着いたのであった。
*** *** *** ***
「……にしてもなんで私がサイドカーなの? フツー逆でしょ? 実力から言って」
バーニングサヴァズシのハンドルを握る俺を横目で睨み、ふくれっ面のおまつさんが今日三度目くらいの悪態をついた。
うう……ホント文句の多い人だ。
まあたしかに、実戦経験やヒーローパワーで言えば、たぶんおまつさんがこの中で最強なんですけど。
「し……仕方ないじゃないですか。マスズシ単体だと車検通らなくて、公道走れないんですから」
「マスズシじゃないわ。ササズシ改。間違えないで」
うう、また睨まれた。もういいじゃん、どっちでも。
俺のバーニングサヴァズシ――まあ、めんどくさいからヤキサバズシとしておこうか――の横には、二つに折りたたまれ、半月型となったピンクゴールドのマスズシことササズシ改がドッキングしているのである。
「名蛾野なんて直線なら二百キロくらいでしょ!? 別々に行けばいいじゃない!! ササズシもフナズシも飛べるんだし!! あんた一人で高速乗って来なさいよ!!」
おまつさんはどうにも収まらない様子だが、そんなことをさせるわけにはいかない。
「ダメですよ。それじゃ、待ち受けているかも知れない敵に、どう対処すんですか? バラバラに動いて各個撃破されたら、コウもトシイエイザーも助けられませんよ?」
そう言っておまつさんの方を振り向いた俺は、後方から迫ってくるトラックに気付いて慌ててハンドルを切った。
「うわっとっと!! 危ねえなあ……」
俺達をすごいスピードで追い抜いていったのは、4トンの箱トラだった。
コンテナの横っ腹には翅蛾県猫日市のゆるキャラ、『ねこにゃん』が見事なカラーリングで描かれている。ねこにゃんは、猫日城という城と武士と猫が合体した、なんとも形容しがたいゆるキャラだ。
これから、県の広報活動にでも行くのであろうか。
「ホラ、こういうこともあるから、別に行った方がいいって言ったの。事故ったら全員死んじゃうじゃない」
おまつさんが、むすっとした表情のままで言う。
たしかに危なかった。
「おまつさん、わがまま言っちゃダメですよ。今だって敬太郎さんが運転してたから避けられたんですよ。私なんか、免許無いですから逆に助かります。それに、こうしていれば全員でお話しできて、道中退屈しませんし」
俺の後ろに座っている小鮎ちゃんがフォローしてくれた。つまり、フナズシ一号機はヤキサバズシの後部にさらに連結しているわけだ。ああややこしい。
それにしても、やっぱりいいコだし、しっかりしてるよなあ。一番精神年齢高いのはこのコかも知れない。
しかも、『敬太郎さん』だって。嬉しいねえ。
こんな変則的な三人乗りバイクの車検が通って、ササズシ単体だと通らない理由は簡単。もともとエアバイクタイプのササズシには車輪がないからだ。
合体後も、サイドカー側の車輪はサヴァズシから出されたものである。
それはフナズシ一号機も同じで、飛行タイプであるがゆえに車検が通せず、ヤキサバズシの後部にドッキングする形になっているわけだ。
全部合体して飛べれば問題無かったんだが、無理だった。出力は充分だったが、制御機構が作り込めなかったらしい。
「べ……べつに話す事なんて無いじゃない。私達は、戦うために協力してるだけなんだし」
おまつさんは小鮎ちゃんの手前、つっけんどんな言い方が出来なくて困っている様子だ。
真っ赤になってしどろもどろ。うん、でもそういうところも可愛い。
「まあまあ、そう言わないで。そうだ。そろそろ昼にしませんか? 次のサービスエリアのレストラン、『ひだまり御膳』ってのが美味いらしいんですよ」
「あ、知ってますそれ。朝ドラの「ひだまり」をモチーフにしたお弁当なんでしょ? 私、食べてみたい~」
俺の提案に、小鮎ちゃんが無邪気な声を上げる。
「私達はドライブに来たんじゃないのよ? ちょっとくつろぎすぎじゃない!?」
おまつさんも口ではそう言いながら、声に険が感じられない。
腐杭を出発してからこっち、トイレ以外はほとんど休憩無しだったから、いい加減疲れてもいるのだろう。
「もちろん分かってますよ。でも、息抜きも必要です。それに、高速を降りる前に現地の情報を得ておくべきですよ。少なくとも、ご当地ヒーローのザザムCがいなくなって、イーヴィルの好き放題になっているはず……名蛾野県警にはイナヅマンシステムは配備されていませんし。じゃあ、次のSAで休憩ってコトで」
「さんせーい」
「し……仕方ないわねえ」
そっぽを向いたまま答えるおまつさん。でも、ちょっと口元はほころんでいる。ったく難儀な性格だなあ。
さて。こうして俺達三人は、敵に囚われ、操られているヒーロー達を奪い返すための旅に出た。
日本各地を巡り、イーヴィルの怪人や操られたヒーロー達と戦いながら仲間を増やし、イーヴィルを操るダークネスウェーブの核心へと近づいていくことになる。
そして、この世界、いやすべての世界の成り立ちとヒーローの意味を知ることになるのだが……その話はまた、別の機会に譲るとしよう。
烈空武装イナヅマン(ご当地ヒーロー大戦) はくたく @hakutaku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます