私がこの小説に興味を持ったのは、日本人が持つ「フィギュアスケートと言えばシングル」という固定観念の構図が、「自転車と言えば競輪」に似ていると思ったからです。自転車競技に競輪、ロードレースやBMX(その他いっぱい)があるように、フィギュアスケートにもシングル、ペア、そして『アイスダンス』があるのです。
「マイナースポーツはなぜ人気がないのか」
これには様々な理由が考えられますが、一番の理由はその競技の面白さが人々に認知されていないということだと私は思っています。この小説はアイスダンスに焦点を当て、少年の気持ちを丁寧に描くことによって競技の魅力を浮かび上がらせることに成功しています。
印象に残ったのは、冒頭で登場する転校生の扱いです。読み進めていくと、主人公と彼との絡みが少なすぎることに気付くはずです。あれ、彼はライバルになるはずなのでは……? なんでこんなにも出番がないのか……? しかし、その理由が明らかになったとき「それこそが伏線だったのか!」と、気づけなかった自分に悔しさを覚えると共に、ちゃんと練られたプロットであることに感銘を受けました。
アイスダンスの世界に、あなたも浸ってみませんか?
平昌オリンピックでも日本選手が活躍しましたし、羽生結弦君が金メダルを獲ったりと、日本にウインタースポーツは定着したものだと思い込んでいました。
アイスダンス。
アイスダンスでは日本の位置付けが低いそうです。競技人口も著しく少ないのだとか。
そんなアイスダンスを題材に、主人公の少年が成長する過程を描いた作品です。
ダンスですから勿論、女性は登場するのですが、本作品が"現代ドラマ"として投稿されている通り、軸は成長物語に有ります。
結構、面白いです。
映画で喩えるなら「ベストキッド」が近いかも。カクヨム投稿作品の中から似た作品を挙げるなら、梧桐彰氏の「右カウンター赤道より」だろうか。
私自身も駄作をカクヨムに投稿しているのですが、明確なメッセージを発する作品に初めて出会いました。
作者にとって、小説執筆は手段に過ぎず、目的はアイスダンスの啓蒙なのです。だからと言って、作品の質が低いわけではない。読書に値する十分なレベルです。私が閲覧者に伝えたい事は、メッセージを持つと、こんなにも作品が輝き始めるのか!と驚く好例だと言う事。
作家志望者には是非、一読を勧めます。
制覇は、スケートは好きでも競技としては捉えておらず、幼なじみの果歩に連れられてときどきリンクに顔を出すくらいだった。
しかし、ひとりの転校生、蒼井の登場によって彼は「アイスダンス」というスポーツの世界に入り込んでいく。
蒼井へのライバル心から始めたアイスダンスだったが、スケートを習ったことのない彼にとって練習は知らない単語、慣れない感覚、初めてだらけで制覇は最初、困惑したり動揺したりする。ところが、必死にしがみついて練習を続けていくうちにアイスダンスの魅力に、そしてスケートの本当の楽しさに気付いていく。
少年の成長や心情がきめ細やかな描写で描かれた、そんな、氷上の「熱い」物語。
第二部も、早速読もうと思います。