第63話 モニター

「再出発セヨ」


銀色の補給船が宇宙ステーションに到着した。

米国人のジョンソンとロシア人のバイコヌールに別れのあいさつをする。

ふたりは胸と肩に国旗の付いた青いジャケットを礼服っぽく着ている。

ジョンソンは宇宙食の豆煮をくれた。

ふたりは俺に、この先どうするのか?と聞いてきたので答えた。

驚いてクレイジーサムライだとか、ヤマトダマシイだの言っていた。


「再出発セヨ」


補給船には3人のクルーが乗っていて宇宙ステーションに乗員の補充をした。

その際、補給物資も搬入したが、4時間で終わった。

俺は士官室でずっと待機していたが、どうぞ、ということで部屋を出た。

これから、ひとり補給船に乗り込む。


「再出発セヨ」


この銀色の補給船は、まず月面基地に降りる予定だ。

月面では新しい大型探査船の建造が進んでいる。

その乗組員として、これから新しい旅に出ることが可能だ。

宇宙での7年の経験があれば何かしら貢献出来るだろう。


「再出発セヨ」


月面を後にした補給船は地球へ帰還する予定だ。

補給船は定期便なので自動操縦で事故のリスクは、ほとんど無い。

もし俺が地球に帰れば、やらかした有名人として叩かれるだろう。

日本では、いくら叩かれても命までは取られないが。

食うには困らないはずだ。

JASAで働いてもいい。本を書いて暮らすのも可能だ。


「再出発セヨ」


窓からボロボロになった「探査機はやふさ9号」モジュール8が見えた。

あれがイオンエンジンを自ら爆破して上昇した傷か。

モジュール6は分離後、大気圏再突入をして燃え尽きたと聞いた。

オーストラリア上空で花火のように綺麗に燃え尽きる映像は昨日確認した。

このモジュール8も、良きタイミングで大気圏に落として燃やす。

博物館には飾られない。


「再出発セヨ」


補給船の銀色のハッチにグイと足をかけて乗り込んだ。

無重力だから別に足をかけなくても良いのだが、儀式だ。

ブーーンというコンプレッサーの音が。

少しだけ地球の匂いが。


「再出発セヨ」


心の中のモニターに、浮かんでは消える文字。

俺は「リョウカイ」と、つぶやいた。





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探査機はやふさ9号(有人) おてて @hand

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