第12話 孤独は一番の敵です
「え、えーっと・・・」
僕、
何か、と問われればそう大したことでもないんだけど。
「どうした和兎。早くペアを見つけんか」
先生が、体育の先生が僕を急かしてくる。
ジャージを着て、年の頃は二十代半ばくらいの爽やかなスポーツマンだ。
くっそー、気づけよ空気読めよ察せよー。
体育の時間は、嫌いじゃなかった。体を動かすのが苦手ということでもないし、ずっと座っているより外に出るほうがいい時もある。
そう、体育の時間は嫌いじゃないんだ。
「ペア、ですよね。ペア」
体育の時間恒例の好きなものとペアを組め命令。
これまでの僕の人生でこんなに困ったことはない。
・・・あ、ごめん噓ついた。花咲さんがいた。あの人に会った時もこれくらい困ってた。
とはいえ、それ並みにピンチではあるわけで。
キョロキョロと、僕は運動場を見渡す。
見渡す限りにクラスメイトは散らばっていて、皆テニスをやっている。
この学校、やたら運動場が広くて探すのに困難なんだ。
と、言えればどれほど良かったか。
いや、運動場が広いのは確かだ。前の学校よりもそれは確実に広い。
だけど、今僕らがいるのはそれとは関係なしで隅っこに設置されたテニスコートであるからして。
運動場の広さは全く関係ないのです。
「おーい!バカ!どこ打ってんだよー」
「すまんすまん」
「いくぞー!」
「ばっちこーい」
楽しそうな声が響く。皆、テニス、楽しいかい?
僕は全然楽しくないよ。
「なんだ、ペアがいないのかお前」
オブラート!包んで!優しく包んで愛おしさをもって接して!
先生の容赦のない一言は僕の心にクリティカルヒットする。
そう、僕にはペアがいなかった。皆、二人とか四人ペアを作っているのにも関わらず、僕だけにペアがいない。
でも、それには理由がある。
「あ、あのさ・・・」
僕の人付き合いが悪いということではない。と思う。
だって。
「な、なに?」
「おい、やめとけって。あいつ花咲とつるんでる奴だぞ。また面倒事に巻き込まれるだけだぞ」
「そうだって、あいつがした悪行の数々を忘れたのか」
三人組を組んでたクラスメイトたちに話しかけ、返ってきたのがこのセリフ。
うん、花咲さんの所為だね。知ってた。
僕が転入してから何回も密かにぶち当たっていたこの壁。
花咲さんと一緒にいると、こんな弊害があるのか。なんてこった、早く縁を切ろう。
「あ、ちょっと待って!」
結局、僕の話は聞いてもらえず三人組の中に入ることはできずじまい。
ちらと周りを見るけど、僕と目を合わせてくれる人はおらず、皆、関わりたくないと心の中の声がよく聞こえる。
まあ、花咲さんが何をやったのか。それは僕もよーく聞いている。
というか嫌でも聞こえてくる。花咲さんの側にいれば。
聞いているからこそ、この反応をなんだか憎むことができないのだ。
だって僕が逆の立場だったのなら、もしも花咲さんとあんな出逢い方をしてなかったなら。きっと、僕も関わろうとはしなかっただろうから。
「どうしよっかなー」
気まずさに耐えられなくて、ガットを揺らすしかすることがない。
ペアを組めないのなら、一人でやるしかないのだが。
いかんせん体育のこういうのでペアを組めないなんて初めてなのでどうやればいいのかわからないし、そもそも一人でやれんの?って問題でもある。主に心の。
こんな状況だ。友達だなんて夢のまた夢。友達作るのって、こんなにハードだったっけ?
「とりあえず壁当てするしかないかー」
チラリ。
クラスメイトのほうを向くも、僕のわざわざ声に出したSOSを受け取ってくれる人はいない。
一つ、大きなため息が自然に漏れ出て。僕は致し方なく自分の言葉に従う。
つまり壁当てを大人しく一人ですることにした。
・・・なげえ!体育の時間ってこんな長かったでしたっけ?
体育だけ時間延びてるとかないよね!?苦痛の時間ってこんななげえんだ!
一人の壁当てがこんなにきついとは知らなかった。そして知りたくはなかった。
「お!なんだ!一人で壁当てしてるのか!熱心だな!えらいぞ!」
うおおい!なんだなんだ!なんできた!?もうそっとしてくれよ!
体育の先生がなぜだか声をかけてきた。
まさかと思うが、自分とペアを組もうだなんて言い出すんじゃなかろうなこのスカポンタン。
そんなことをしたら地獄よりも酷い。公開処刑もいいところだ。
頼む、頼むから自分とやろうとか言いださないでくれ。
「みんなー!集まれ!和兎を見習え!ちゃんと一人でも授業に集中しているぞ!皆ももっと集中して授業に取り組もう!!」
違う意味で公開処刑された———————!!違う意味で地獄にたたきつけられた——————!
ふざけんなこの野郎!ペアになることも断られ、せっかく一人で虚しく心を無にする術を身につけようと思ったのに!
一体全体なんなんだ、またこいつか、面倒だ。そんな視線が遠慮なく僕にぶっ刺さる。
「先輩!どうして私に行ってくれないんですか!?ペアなら私と組みましょう!」
「おいこらどっから湧いて出た!?」
クラスどころか学年すら違う奴がでてきちゃったよ!授業に戻れ変態!!
「ほらみろ、やっぱ変なヤツなんだよ」
「あの花咲と付き合っている時点で変だけどな」
「関わらないほうがいいって」
ダダ下がってるぅ!ただでさえ地に落ちていた僕の評価が何もしてないのにめり込んじゃってるよ!
付き合う友達は選んだほうがいいってあれ本当だね。
この一時間で何度目かのため息をついたところで、事件は起きた。
「おっとと」
僕の真面目な性格が災いして、それは起きた。
壁当て中のボールがまだポンポンと転がっていったのでそれを追いかけていたんだ。
そして、跳ねたボールは人の頭部に当たった。
とはいえ、そんな剛速球が当たったわけでは勿論なく。
「あ、ごめん」
と、僕が一つ謝ったところで。
ドサリ。
人の倒れる音が、した。
花咲探偵は推理しない。 高宮 新太 @Takamiya
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