第11話 あー、こういうオチかぁ
「あ、松島君だ」
ドアを開けると、そこにいたのは相変わらず恰幅のいい松島君だった。
「ど、ども」
「あ、うん」
なんとなく気まずさをお互いに抱えながら挨拶をする。
「ほらほら!そんなとこで突っ立ってないでこちらに座りなよ!」
まったくもってこうなんで野次馬精神旺盛なんだろうこの人。
花咲さんの瞳がキラキラと光り輝いている。絶対ロクでもないこと考えてる。
普段、僕しか使ってない黒いソファは、本来の用途を思い出したようにお客を座らせる。
「で、一体全体どんな恋の相談だい?いつもそばにいたあの子が急にいなくなって寂しい?それとも、自分を好きだったあの子が急に他の男に盗られて悔しい?さあ!どっちだい!」
いやめっちゃ決めつけてる!めっちゃ押し付けてる!!
自分が聞きたいだけだろそれ。
「い、いや。ただ僕は・・・そんなんじゃなくて・・・」
あれえ!?あながち間違ってもないっぽい?
花咲さんの勘、いつもは外れるくせになんでこういうどうでもいい時に当たるんだ。
松島君の表情は、は?そんなんじゃないし、別に俺があいつ好きとかありえないし。と言っていた。ただ漏れだった。
「ははは、わかりやすいな君は。だが残念。もうあの女はコイツにぞっこんだ」
「ちょ!何言い出すんすか!」
急に興味を失ったかのように話を畳もうとしだす花咲さんに僕は焦る。
そうか!この人なまじ勘で当ててしまったからもう満足しちゃったんだ。なんてめんどくさい性格だ!
(ちょ、ちょっと!余計なこと言わないで下さい!話がややこしくなったらどうすんですか!)
松島君に聞こえないように僕は小声で花咲さんに抗議する。
(もういいじゃないか。とっとと決着つけてやれば。松島君が変にこじれたらどうするんだい)
絶対思ってねえ。絶対自分がさっさとエンディングみたいだけだ腹立つ。
「あの、渡辺にぞっこんって本当ですか?」
ほらもう!なんか凄い訝しげに聞いてきたじゃん!なんて答えればいいの!?なんて答えるのが正解?これ!
「に、じゃなくて。渡辺君が。だよ」
「なんで僕じゃなくてアンタが答えんだよ!」
「自分じゃ言いづらいだろう?こういうのは」
いやまあそうなんだけど!確かに言いづらいけど!だからなんで今日に限って気が利くんだよ!誰アンタ?本当にあの傍若無人な花咲さん?
「ああ、先輩もストーカー被害に会ってるんですね。お気持ちわかりますよ」
死んだ瞳で言われた。憐みの視線を向けられた。
ほんの数週間前の松島君の状態を思い出して、僕も憐みしか浮かんでこないけど。
ストーカー、ダメ。絶対。
「それで、依頼っていうのは?」
なんとか、振り切るように僕は本題を切り出す。
「えっと、渡辺のことで」
ポツリポツリと恥ずかしげになりながらも、話してくれる松島君。
要約すると。
「つまり、最近明るくなった渡辺さんがなぜ自分につきまとうのを辞めたのか知りたいと」
言葉にした瞬間の、顔の真っ赤な松島君はなんだか青春の匂いがした。
「だから言ってるだろ。もうワトソン君に、彼女の心は移ってしまったのさ」
「だーかーら!さらっと言うなっての!」
「いいんです。それは」
あ、いいんだ。
「なんで、あんなに彼女が変わったのかそれを聞きたくて」
「うーん」
それを聞かれても、渡辺さんのことを語れるほどに僕らは詳しくない。
だから、勝手な僕の見解を独りでに語ることにした。
「僕が思うに、あれが本来の渡辺さんなんじゃないかな」
「本来の?」
「うん。だって、渡辺さん、友達が欲しかったんだと思う。あの時の自分が辛そうだったんだと思う」
結果として渡辺さんは変わったけれど、でも、今のほうが自然体なのではないかと僕は思う。
確証もなにもない、ただの推理だけど。
「渡辺、友達ができたんです。多くはないけど、でも。友達と笑ってた」
「そんなギャップに君はやられたわけだ」
「花咲さんうるさい」
今、真面目な話してるから。アンタの出番はない。
でも、そっか。友達出来たんだ。
今の明るさといい、本当によかったと思う。依頼に来てくれたのに、なんにもできなかったから。
「—————それじゃ、僕はこれで」
「え?もういいの?」
てっきり、また渡辺さんの時みたくなにかしら行動に移すのか思っていたけど。
「いいんです。なんとなく、渡辺が先輩を好きな理由、わかったから」
うぐ。改めて言われるとなんかこう。恥ずかしいけど。
でも、松島君はそれっきり本当に部室を後に行ってしまった。
「いやー、大人ですね。花咲さんも爪の垢を煎じて飲ませてもらえばよかったのに」
「おい。それは僕が大人じゃないと言いたいのかい?あのね、探偵には大人の推理力が必要なんだよ」
いやあんた推理しないじゃん。勘で当てるだけじゃん。
なおもぐーたら言い訳を並べ立てる花咲さんにあきれながら、僕はまた一つお茶を入れるスキルが上がったのだった。
「センパイ、最近なんか妙な視線を感じるんですよねー」
「へ、へー」
そんな学校が終わり玄関を開けるとナチュラルに僕の家にいる渡辺さんにはいつまでたっても慣れない。
いや、慣れたらおしまいだが。
「気のせいじゃないかな?あ、髪切った?」
「気のせいじゃないですし、切ってもないです」
「あ、そう」
嫌な予感がバリバリする。
「やっぱりプロの視点からみて、これは間違いないと思うんですよ」
「いやプロって何?アマチュアとプロとかあんの?」
試験とかあんのか。なに?何時間以内に特定の人の住所を突き止めなさいみたいな?傍迷惑な試験だなおい。
ていうかストーカーの自覚はあったんだね。
「ええ!やっぱり根っこのところは変われませんでした」
いやものっそい笑顔で言ってるけど一番変えなきゃいけないところだよねそれ!一番やばいの丸々残ってるよねそれ!!
「あ、ほら!今も!」
「今も!?つってもここ僕の家だしな」
ストーカー被害に遭っていると言われて、なんだか放っておくわけにもいかず。
「とりあえず、今日のところは帰ります」
「そう?送っていこうか?」
そんな話をされたら、一人が返すことに不安を感じてしまう。
「え!?ホントですか?やったあ!」
なんか、こうも喜ばれると怖い。送っていくだけだからね?家とか上がらないから。
つか、あれ。これを見越してストーカーの話したとかじゃないよね?
「うおおおおお!」
いやテンション上がりすぎだから!怖いよ!もう送ってくの辞めようかな!
それでも一応、外まで出たところで。
「・・・・あ」
一応キョロキョロと周囲を確認。すると、電柱の陰に一つの恰幅のいい大きな人影。
「あ」
松島君だった。コソコソとストーカー行為に励んでいた松島君だった。
「渡辺さん。大丈夫だよ。たぶん危害は加えないと思うから」
放課後のあのいいセリフはどこ行ったんだ。と、詰め寄りたいけど。なんとなく彼の罰の悪そうな顔を見ていたらそんな気も失せた。
「ということで、僕帰るね」
「ええ!?送ってくれないんですか?」
「うん。怖いし」
別に辺りが暗いわけでも、人通りが少ないわけでもない。大丈夫だ。
そんなこんなで、僕はくるりと今来た道を戻る。渡辺さんの視線が背中に刺さるけど無視した。
そして、一人空に向かってつぶやく。
「ああー、こういうオチかぁ」
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