第2話

 私は10歳の時、私は生まれ育った小さいけど豊かで大好きな皆がいる自国からでる事になった。


 宗主国であるモラビス王国の第3皇子の側室になる為にモラビス王国に向かうことが決定した。


 本来は成人後に向かうはずがユスティア帝国とモラビス王国の戦争が激化した為に魔力の強い私を首都の結界石に魔力を注ぐ役割を頼まれたのだ。


 宗主国のモラビス王国が敗れれば私の国も危うくなる。


 少しでも私が力になれるならと喜んでモラビス王国に向かった。


 60を超える国王ディートハルトは年に似合わず覇気を纏った老人だった。


「結界石の魔力供給を頼む」と一言だけ言われ謁見は終わり、ちょっと拍子抜けしたけど私はそのまま、後宮西の丸に入った。


 モラビス王国の後宮とは皇帝及びその家族の住まいの事を指す。その中でも皇帝と正室及びその家族だけが住む後宮本殿と側室及びその家族の内女子のみが住まう男子禁制の後宮西の丸に別れている。


 結界石に魔力を注ぐのと同時に王族の妃になる為に教育を施されるためにすぐさま後宮西の丸に入れられた私だが数ある従属国の中の一つ、しかも本来は皇帝の側室しか入れない場所に第三皇子の側室だ。


 年上の、しかも皇帝の側室やその娘に比べ地位が低すぎ、地味な嫌がらせや陰口は絶えなかった。


 私の国から献上品はモラビス王国でも人気で賄賂とばかりに私個人に送られてきた品を側室方に配り、自国で褒められた太陽のような笑顔で多くの味方をつくる事に成功していた。


 10歳の時の私も人が好きだったのだ。


 人の悪い感情も努力で好意に変わると素直に信じていたのだ。


 第三皇子とは15歳の時、後宮二の丸を出るまで会う事はないと言われていたが幸せだった。


 ニッコリと太陽のような笑顔で笑う。 


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「ご実家って山の中にあるのよね。どうりで品がないと思ったわ」


 ふんわりとカールした蜂蜜色の髪をもち、くりくりとした目が特徴的な可愛らしい20代前半の女性の一言だった。


 彼女は60歳を超えた王ディートハルトが地方に視察に出かけた際に見初められて新しく入った国王の側室だった。


 クラーラと名のとてもとても可愛らしい女性だった。


 可愛らしくたまに毒を吐くそんな女性だった。


「そうですわね。実家はモラビス王国ほど洗練されたモノはありませんわ。でも、真っ赤な太陽みたいな宝石が取れる素敵な所ですのよ。特に国宝の首飾りはとても美しくて一度みたら目を離せなくなってしまいますわ」


 挑発したつもりはなかった。


 人の欲が……悪意が……ここまで苛烈だとは知らなかった。


 彼女は可愛らしい雰囲気で、身に着けている物も華美ではなく清楚だが洗練された服装をよく身に着けていた。


 でも、その可愛らしい顔の彼女のふっとした視線や表情から清楚より濃艶を好み、洗練されたものより派手な宝石を好むのを知っていた。


 だから、私は彼女が興味を引く話をしただけなのだ。


「あら……そんなに素晴らしい宝石なら一度見てみたいわ」

「ええ。国宝まではいきませんが、良質な宝石を出荷させて頂いてますの。是非、ご覧になってくださいね」


 ふんわりと華が咲くような、可憐な笑顔に私は目を奪われる。


見とれていた自分が恥ずかしくて、アタフタしながらも私は自国の特産品の売り込みを行う。


 クラーラが何を思っていたのかを考えもせずに……


 ニッコリと太陽のような笑顔で笑う。


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 あの可愛らしい側室とのお茶会から数か月たった。私はその時の会話の内容をすっかり忘れていた。


 あの笑顔に慌てて何を口にしたのか自分でもよく覚えていなかったというのもあるが、側室の興味を引く事までが私の仕事で実際に販売するのは使節団の仕事だからだ。


 バタバタと大きな音を立て、本来、男子禁制の後宮西の丸に屈強な近衛兵が私の部屋の扉を乱暴に押し開けなだれ込んできた。


「何事ですか。無礼な」

「リリーナ・オルブタリア……いや、リリーナ。こい」


 現在の私の立場は第三皇子の側室予定の婚約者に過ぎない。


 従って、私の姓はオルブタリア……小さな国の……私の愛する国の名前を冠している。


 有無を言わさずに、私の小さな体を押し倒しあっという間に手に武骨な木で出来た手錠をはめられた。


「私を誰だか分かっているのですか」

「あぁ、分かっているさ。亡国の王女様。貴方様の祖国を制圧したと知らせが届いたのでね。敗戦国の姫様は奴隷になるのが古来からのしきたりでしょう?」


 ニヤニヤと自慢げに話す近衛兵は動じる事もなく放った一言に私は固まる。


「ど……どういう意味です」

「そのままの意味ですよ。オルブタリア……お前の国がユスティア帝国と繋がっている事が判明したのでな。小さな属国が小賢しくも我らとユスティア帝国を天秤にかけようとはな」

「そんな事、お父様もお母様もするはずが……ぐっ」

「おしゃべりは終わりだ。あぁ、お前たちオルブタリアの王族の魔力は高いからな。これから奴隷として我が国に誠心誠意協力してもらう事になるだろうな」


 隊長と思われる男に槍の石づきで頬を叩かれ一瞬……意識が飛ぶ。


 睨みつけようと顔を上げた視界に入ってきた光に私は目を奪われた。


 ――その首飾り、オルブタリアの国宝を何故貴方が!!


 クラーラのふんわりと華が咲くような、可憐な笑顔に私は目を奪われた。


「あぁ、リリーナ様。御紹介いただいたこの首飾りとっても素敵ですね。わたくし、どうしても欲しくなって王様にお願いしたの。ごめんなさいね」

「ふさげないで」


 怒鳴った私を兵士は家畜を運ぶように引きずっていく。


 ――あぁ、そうか。貴方のせいなんだ。そして私の……


 彼女だけではない。仲良くしていたと思っていた他の側室方も笑っていた。


 オルブタリアの王族の魔力は利用価値があると言っていた。お父様もお母様もお兄様も生きているはずだ。


 なんとしても、生き延びてやる。


 獰猛な獣のように唸りながら笑う。

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踊る少女と自称天才少女の建国記 十之 @nakachojp_3

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