第10話「超HENTAI爆発! 守られたものと失ったもの」
真っ白な空間。
目の前に、エイリが浮かんでいた。
ここがどこなのか、問う前に、エイリが言った。
「私が間違っていた」
相変わらず、エイリの表情からは感情が読み取れなかった。
「HENTAI……ハイパー・エモーショナル・ネイキッド・トランスフォーメーション・アタッチメント・インテリジェンスを作ったのは、私だ」
「おまえ、HENTAIの力を奪おうとしてたんじゃないのか?」
「最初に私から奪ったのは宇宙警察。いや、HENTAIが創造者である私に反旗を翻した、というのに近い。どうしても取り戻したかったのだが……HENTAIと、君の判断は正しかった」
そこまで言うと、エイリの姿がぼんやりとしてくる。
「私には、擬態能力がある。しかしながら、何かを自らの意志で為すことに、惹かれていたのかもしれない」
エイリが、消えてしまう。
きっと、すごく、遠くに……。
「待てよ、どこに行くんだ⁉」
「また会おう、人類。君が得たのは、超HENTAIの力だ」
「超HENTAIってなんだよ!?」
はっと気づいたときには、見慣れた町の風景がある。
俺は、全裸で、エイリを抱きかかえていた。
「
HENTAIが、駆け寄ってくる。
「手に入れたようだな。HENTAIの力を無効化する、超HENTAIの力を。おまえが、HENTAI化したエイリを倒したのだ」
「だから、なんなんだよ、それ!? しとやかは⁉」
「彼女は無事だ。精神攻撃をおまえが防いでくれたおかげだ」
「そうか……」
ほっとして、気が抜けてきた。
これで、町を守ることができたのだ。
しとやかのことも。
「お、
しとやかの意識が現れる。
「このままでは、あまり、好ましくないのではありませんか……⁉」
彼女は、両手で自身の身体を覆いつつ、俺から視線を逸らす。
そういえば、俺は全裸のまま、エイリをずっと抱えていたのだ。
エイリも服が消し飛んでから、そのままの状態だった。
「な、なにか着るものは⁉」
と言っても、俺の制服は影も形もなくなっていた。
エイリを地面に降ろそうとすると、ぎゅっと抱きしめられる。
彼女はじっと、俺を見上げている。
(これが、超HENTAIの無効化パワーか?)
エイリは、今は、ただの小さな女の子のように見える。
もしかしたら、また、騙されるかもしれない、という気持ちが一瞬よぎった。
だが、不思議と、そんなことはないだろうと思えてくる。
「ふむ。エイリの身体を、さきほどから確認していたのだが、特に脅威は感じられない。邪悪な意志も」
HENTAIが言った。
「じゃあ、もう、エイリは、普通の女の子と変わらなくなっているのか?」
「そう言ってかまわないだろう。少なくとも、宇宙犯罪者としての罪を償う能力はないな」
HENTAIは困惑しているようだった。
無言のまま、エイリは俺を見つめた。
もしも、今のエイリをエイリアンとして、誰かが発見したら、どうなるだろう。
(実験なんかされたら……かわいそうだ)
「こうなったらしかたがありません。エイリ様は、わたくしが、我が子として育ててご覧にいれます!」
しとやかが、いきなり宣言した。
「待て、ずっと言ってるけど、君は未成年者だろ⁉ だったら、俺がなんとかする!」
最悪、宇宙犯罪者として目覚めた場合の監視もかねて、見守ったほうがいいかもしれない。
「いえ、ここは、わたくしが!」
「ダメだって! 法律上の問題だってある。俺は社会人だし、その点は大丈夫だ」
「
「しとやかだってないだろ!」
「では、一緒に育てましょう」
しとやかは、真剣な瞳で俺を見つめた。
「和歌をお渡しした時のこと、憶えていらっしゃいますか?」
「ええと、初めて牛車で交番に来た時だよな? あの後、UFOが……」
「わたくしと、結婚してくださいませ」
「は?」
聞き返した俺は、間抜けな表情だったに違いない。
「大和撫子は、直接、殿方にそのようなことをお伝えしてはならないと、教わって育ちましたので……。和歌をお渡ししたのに、読んでくださらないのですもの。直接お話するしかございませんでした」
しとやかが、顔を赤らめる。
「ま、待て、責任がどうとかって、あれ、そういう意味か⁉」
「責任をお取りいただくにあたって、他にどのような手段がございましょう? わたくしにとっては、当初の予定通りになるだけでございます。また、万事解決の手段ではございませんか?」
「そうだな、しとやか、殊勝な心掛けだ!」
HENTAIが割り込んできて余計なことを言う。
「待てって! しとやかは未成年だろ!」
「わたくしは、16歳を迎えております。日本の法律では結婚することが可能でございます」
「保護者の許可が必要だったな。私もともに説得するとしよう」
「うっ……」
困ったことになった。
だが、まんざらでもないことに、俺は気づく。
……だが。
「それより、早く、服を着よう! 裸で立ち話してたらおかしいだろ!」
「そ、そういえば! 平和になりましたので、わたくし……もう、人前で肌を見せることもないのでございますね!」
恥じらいながらも、しとやかは、安心したように言う。
けれど、どこか、胸騒ぎがした。
どうにも、いてもたってもいられない、おかしな感覚。
「気づいたか、
「脅威の気配って……まさか、また、宇宙犯罪者が!?」
「そのとおりだ! さきほどの、超HENTAI爆発が、宇宙に広がり、地球を中心として平和がもたらされた! だが、そのため、地球に超HENTAIの力が存在することがわかってしまった! おまえの力を求めて、全宇宙から犯罪者が集まってきている!」
HENTAIが、空を見上げた。
「これからも地球を守らねば!」
「いやあああああああああああ!」
HENTAIの決意の言葉と、しとやかの悲鳴が交互に発せられる。
「今後は、おまえも私と一緒に戦うのだ。その力で、正義を為すのだ!」
「まさか、俺も、全裸になるのか⁉」
「もちろんだ。超HENTAIの真の力を発揮するには、それがベストだからな」
(俺もヒーローになれるって……⁉ 全裸だけど!)
HENTAIの言葉に固まっていると、どこからか、サイレンの音が聞こえてくる。
パトカーのもので間違いなかった。
「お巡りさん、HENTAIです! あいつら、私のカメラを壊したんです!」
「私の大事な撮影機材が! PCも、予備のやつも全部壊れたじゃないですか!」
「なんで通報してるんだよ!?」
「パワーを制御しないせいで器物破損したことを反省してください! アフィリエイト収入何か月分だと思っているんですか!」
そんなに儲かるのか⁉ こいつのゴシップ記事ブログ!
「そんなこと言われてもな! だいたい、おまえのやってることは犯罪だろ!」
「私には言論と報道の自由があります! でも、全裸で町を歩くのは犯罪ですよー!」
「くっ、しかたない!」
「きゃあああああああ!!」
俺としとやかは、慌てて走り出す。
エイリのことも、もちろん、連れていく。
「急げ!
しとやかの身体が、光を放つ。
HENTAIが、俺の手を取った。
俺たちは、空中に飛び上がる。
しとやかと手をつなぎ、開いている方の手で、エイリを抱きかかえる。
「
「わかったよ! おまえたちを放っておけないからな!」
空高く、舞い上がり、俺たちは、ずっと遠くまで飛んでいった。
おまわりさん、HENTAIです! 森水鷲葉 @morimizushuba
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