第23話
扉のない入口から理と壮は入ってきた。
「ふざけんな。アイツは私の相手なの。アンタは一人で修行でもしてれば?」
「怒んなって」
「は!? キレてないから!」
「.....キレてんだろ」
ボヤきながら理は楚歌と対峙している男を見る。綺麗で上質なカンフー服。戦闘していたとは思えないくらい整えられたヘアスタイル。
ーーアイツは.....今朝の。
「へえ、アンタが摩耗会の師範代だったのかよ」
「はい。言ってませんでしたっけ?」
「多分言ってねーな。分かんねーけど」
「さっき君が『道場破り』と言っていたのを耳に挟んだんですが.....気のせいですかね?」
「いいや、その通りだよ」
干支の笑顔が少し強ばる。目が笑っていないとはこの事だろうか?
「えーっと、『燃龍館』は道場破りをしているのですか? そういう噂は聞かなかったんですが」
「まあ色々あって今、燃龍館はない。コイツに看板取られちまったからよ」理は隣にいる楚歌を親指で指さす。
「コイツってっ!!!!」楚歌は額に血管を浮かべる。
楚歌を無視して理は話を続ける。
「最初は道場破りなんてするつもりなかった。でもな、このガキから話を聞いて心が変わった。摩耗会だけはぶっ潰さねぇと俺の気が済まねぇ」
干支は壮を見る。
「ああ、えーっと、道場の事は基本的に外部の人間に話しちゃダメなんですけど.....『罰金対象』ですよ?」
干支の気味の悪い笑顔。それを見て壮は震える。無意識に干支を恐れてしまっている。
理は壮の背中を軽く叩いた。
「一つ聞きてぇ」
「はい、何ですか?」
「お前にとってカンフーってのは何なんだ?」
そうですねぇ、と顎に手をやる。
「強くなるためのもの、でしょうか?」
予想していた答えと違うものが返ってきた。
「お前は金をむしり取ってるだけだろ?」
「人聞きが悪いですね.....。確かに他の道場と比べて費用はかかるかもしれません。しかし実際問題、門下生達はお金のために必死に努力し、強くなっています。お金は人を強くするのです」
「そんな方法で強くなってもカンフーの本当の楽しさは分からねぇ。それに」
「強くなくったって、ソイツにとって道場は大切な居場所であるべきなんだよ!」
「そうですか.....。頂点を目指す君とは分かりあえると思ったんですが」
「一生分からねぇよ。だからここの看板は俺が貰う」
「でもですね.....私、今、そちらの女性と決闘していまして、それが終わるまで待っていただけないですか?」
「私が倒すからアンタが闘うことは無いわよ。ほら、さっさと帰れバカ」
「頼む、俺に譲ってくれ」理は楚歌に頭を下げる。
「ふざけんな」
ーー何とかしねーと。
「お前は俺よりも強いよな?」理は楚歌に言う。
「当たり前でしょ?」
「って事は俺が干支に勝てば自動的にお前も干支より強いってことになるだろ?」
まあ、確かに。と楚歌。
ーーもう一押し。
「でもって、最初はここで修行する予定だったじゃねーか。俺は何とかここで
「でも、看板は私が貰いたいし」
「ここの看板はお前にやるよ。俺は摩耗会が潰れりゃいいだけだからな」
「でも.....」
「俺は知ってるぜ。お前が大人なの。こういう時、一歩引いてくれるはずだ」
「.....分かった。看板は私によこしなさいよ?」
「勿論だ」
ーーこいつ簡単だなぁ.....。
「で、話はまとまりましたか?私としては扉の修理費が欲しいだけなんですが」
「その決闘は一先ず置いといてくれ。先に俺と闘おう」
「.....私が負ければ摩耗会の看板を差し上げる。君が負けたらどうするのですか?それが釣り合わないと闘う意味が」
「全部やる。俺か持ってる全部を」
干支は少し黙る。
「それは.....理君の未来も、ですか?」
「摩耗会に入るでも何でも。好きにしろ」
「分かりました.....やりましょう」
干支が楚歌との闘いを一旦置いて、勝負を受け入れたのには、楚歌にも、さとるにも絶対に勝てるという自信があったからだ。
彼が何をしようと、師範代であるという事実は変わらない。
カンフーで最強を目指す俺は五人姉妹にリンチされた @U-sei
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