村・・・?
「ああ、よく寝た! もう明るいな。」
昨夜、自らの魔法によって地面に放り出されたレン。
翌日普通に起床は出来たものの、体のあちこちが痛い。
「さて、何でこんなところにいるんだ? この村の人々は不親切だな。何か盗られているものは……無いな。インフィもいるし。まだ寝とる。」
"こんなところ"とは、外の硬い地面の上である。どうやら落ちた場所のようだ。荷物もそのままだ。
村人たちが不親切かどうかは置いておくとして、いやに閑散としていることにレンは気が付いた。
(子供たちとかが外で遊んでてもいいくらいの時間帯なのに、こうも人一人いないとは。)
辺りから人の気配は感じられない。そしてレンは、あることに気づく。
(さっき、村の人々が、なんて言ったけど、そもそも人はいるのか?)
レンは村じゅうを探すことにした。
◆◆◆◇◆◆◆
近くに民家のような建物があったので、まずはこの家にお邪魔することにする。
「すいませ~ん、誰かいませんか~? ……誰もいないなあ。」
扉まで開けて声をかけてみるが、反応がない。
隣接する民家でも同じことを行ったが、反応がなかったため、勝手にお邪魔させていただいた。
すると、なんと、人さえもいなかった。
「これはおかしい……おかしいぞ……。」
前も同じような光景があったような……デジャヴ? いいえ、違います。
今回はインフィにも協力を要請した。快く受け入れてくれたのが幸いだ。
インフィは今、さっきまで寝ていたとは思えないほどの速い動きで村人を探し回っている。
色々と考えながら歩いていたら、村長の家らしきものにたどり着いた。
「ごめんくださ~い!」
声をかけるが、やはり何も反応がない。
次は中に入ってみる。これまでとほぼ同じ流れだ。
家の中を探し回った。居間やら台所やら、二階の寝室とかまで……。
結果は……
「だぁ~れもいない!」
村長の家までもぬけの殻となると、本当にこの村に人がいない可能性が出てきた。レンは焦燥感を感じた。
何と言ったって食事がとれないんじゃ困る。
この世界、FANCIFUL-WORLDには食欲の概念が存在する。ゲームの頃は別に何も食べなくてもよかったが、今は現実だ。話が違う。
ちなみに『HP(ヒットポイント)』とスタミナは違うらしい。
この世界では疲れもするし、眠くなることもあるが、それはスタミナが関係する。これは数値化されていないようだ。
HPは攻撃を受けた時などに関係するようで、基本は減らないみたいだ。
「~~~。」
まあまあタイミングよくインフィが帰ってきた。何を喋っているのかわからない。そのため、コミュニケーションはこうする。
「インフィ、お帰り。村に俺ら以外の誰もいなかったらジャンプして?」
ピョンッ
ジャンプした。誰もいなかったようだ……きついなあ。
「全く、何で誰もいないんだよぁそうか! わかった!」
レンは何か大事なことに気づいたようだ。インフィは不思議そうな顔をしている。紹介が遅れたが、インフィにはちゃんと目と口がある。
「蜃気楼を実体化させるだけだから、人は出てこないのか!」
ああなるほど、とでも言うかのように、インフィは瞬きをした。
『蜃気楼実体化』。実際は無いものを在るものに変える反則級の魔法だ。多分他の『夢幻属性魔法』も強力なのだろう。
だが、蜃気楼実体化には出来ないことがある。それは、在るべき動物を在るものにできないことだ。
最初は、生物という広い範囲だと思っていたが、木はちゃんとあったことから、動物界に絞られるとレンは判断した。
そりゃあどこかに全く同じ動物が存在したら気味が悪いだろう。しかも人間なので尚更だ。
だが、どのみちこの世界に同じ二つの村が存在することになってしまったが。
それでどうするか。ということがいま問われている。起床は昼、なんだかんだでもう夕方だ。
「どうしようか……村、村、村……そうだ! 自分の村を作ろう!」
それはともかく、レンは自分の村を作ることにした。
「えっと、灯りは『フォーア(炎属性攻撃魔法第一段階)』でいいとして、食事は……そこら辺の犬共(ケルベロス)を狩るか。モンスターだから別に食っても罪はないだろ。家はあの小奇麗な家にしよう。」
レンは自分の自分による自分の為の村づくりが始まることに興奮していた。大体そういう時は頭がよく回るものだ。
「まっ、明日だな!」
村づくりが始まる明日に期待を寄せながら、今日はとりあえずその小奇麗な家とやらに泊まることにした。
少し気になり、ステータスを覗いてみると、能力値が全快していた。MPも寝れば回復するらしい。だが称号に、『スライム愛護者』というものが追加されていた。この世界の創世者なんてものがいるのであれば、喧嘩を売る達人に違いない。
家に入ると、玄関そして居間があり、木のテーブルが置いてある。キッチンもちゃんとあり、二階に上がれば寝室もある。
三つある寝室のうちの真ん中を使用することにした。
「じゃあお休みインフィ。」
そういったときにはインフィはもうすでに床で寝ていた。そしてレンもまもなく眠りについた。
ファンシフル・ワールド @Yuji-Nagamoto
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