第2話ちょっとした追憶

 伝説の男キングに裏街の SM クラブへ呼び出された僕は直立不動で膝を震わせていた。


 目の前のキングはソファーの真ん中にどっしりと座っている。目はギョロリとしていて唇が厚い。線は細いが身体がでかいため、ものすごい威圧感いあつかんである。

稲葉秋穂いなばあきほを知っているか?」

 キングは頭だけ僕に向け無表情で質問した。

「中学生時代のクラスメートだよ、彼女がどうした?」と、僕は素直に答えた。

 全く問題ない。後ろめたいことは何もない。

「秋穂は俺のスウィートベイビーだ」

 キングは冷静な笑顔でいった。おそらく、ここは笑うべきだ、と思ったのだろう。そして笑顔は一瞬で消えた。

「秋穂はオマエのことをかわいい男だと言っていた」

「そしてそれ以上のことはしゃべりたがらないのだ」

「二人の間に何があった?」

 キングが言いつらねた。

 何もないよ、何もない。秋穂か、何故そんな意味深いみしんな言い方を?

 ……いや待て、一度だけ僕と秋穂は大ゲンカしたことがあったな。僕はそのことをキングに話した。

「秋穂がしつこく僕をからかったんだよ」

「僕は当時まだ子供でかわいい女子をいじめるような男子だった」

「その辺を秋穂に激しく突っ込まれた」

「それに僕が逆ギレしたんだ」

 今度は僕が言いつらねた。


 キングがまた火星を探し始めた。難しそうだ。もしかするとキングの火星探しは死ぬまで続くのかもしれない。

 そしてキングは大爆笑した。彼とは初対面だが……こんなに心の底から笑ったのはひさびさだろうな、そんな感じ。   

 僕は自分で自分がこっ恥ずかしくなってしまった。秋穂の心情も解ったし。

 ……秋穂か、確かに美少女だったな。あの頃はうざい女にしか思えなかったが。いや実にもったいないことをした。


「気にするな、boy 、俺も秋穂の前では単なる boy だ」と、キングはやさしい。

 何だよ、僕はここに恥をかきに来たのか。僕は全身から汗がき出す。

 キングは手もとにあるスマホに「終わっよ」と告げた。


……なぜ僕と秋穂は燃えるような恋をする関係にならなかったのだろうか?

 帰り道、全国チェーンの和食レストランで、僕は考えにふける。かつ丼定食は美味かった。大きな窓から見える夜の街がとてもいとしい。

 別れる間際キングは「何かあったらここに来い」と言った。ピンチの時は俺がフォローしてやる、ということだろう。今ごろ秋穂とラブラブかもしれない。


 結論の出ないことばかりだ。

 酒が飲みたかった。食後の心地よい睡魔。

 レストラン店内から夜の街を見ながら「それでも世の中捨てたもんじゃないな」とボンヤリ考えた。

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My yellow life Jack-indoorwolf @jun-diabolo-13

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