My yellow life

Jack-indoorwolf

第1話キングに呼び出しをくらう

「質問されたこと以外、しゃべるな」

 あぁ、何てこった! 僕は今、学校帰り、制服のまま裏街の SM クラブにいる。


 さまざまな風俗店が入った雑居ビル。いや、雑居ビルと呼ぶには高級過ぎる。実際僕が立っている廊下や目の前のドアは立派な建築家が見たらうなるだろう。

「質問されたこと以外、しゃべるな。現実問題、キングがオマエに興味を持っているとは思えない」

 スマートでピンクのスーツを着た男は目の前のノックしたドアを開けながら言った。

 人類のテクノロジーはセックス産業と軍事産業によって進歩する。これは歴史の先生がよく言うジョーク。実際案内された部屋に入ると SF 映画の撮影セットのようだった。かろううじていたる所にあるくさり手錠てじょうがその手の部屋であることをうかがわせる。遠くの壁面には不吉な色をした血の跡が見えた。

 一方、僕は興奮剤を静脈注射じょうみゃくちゅうしゃされたような気分。心臓が暴力的なラップを叫ぶ。


 そして部屋の奥に案内された僕は初めてその男と対面した。

 男は遠くを見ていた。目で火星を探しているのかもしれない。キングと呼ばれる男。彼は漆黒しっこくのレザーソファーに仰向あおむけに寝そべっていた。一度僕に目を向けるが再び火星を探し始める。

「オマエが立花誠たちばなまことか?」とキングはつぶやいた。

「そうだ」

 意外にも堂々と答える自分に我ながら驚く。

 キングが黙って頷くとピンクのスーツの男は一礼をして部屋から出て行った。いきなりのハイスピードでソファーに座り直すキング。火星は見つかったのだろうか。僕たちは二人きりだ。

稲葉秋穂いなばあきほを知ってるか?」

 何だと!? キングは街を仕切る暴力団組長より恐れられているのだ。彼はこのあたり一帯の、イケないことをしがちな若者のリーダー。ホワイトハウスが中東情勢の相談を正式な書簡しょかんにしてキングに送ってきた、という噂が立つほどだ。その伝説の男が SM クラブに僕を呼び出して稲葉秋穂って、どういうことだ?


 稲葉秋穂は単なる僕の中学生時代のクラスメートだ。

 いや、稲葉秋穂は決して僕の元カノとかそんなのじゃない、いやいや、ホントだよ。何故なら僕の彼女いない歴と年齢は同じ 17 だからだ。ほっといてくれ。

 えっ、どういうことだろう? 別に僕と稲葉秋穂は仲が良かった訳じゃない。

 その稲葉秋穂に何があったというんだ!?

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