1話完結の短編小説です。
淡々と紡がれる言葉にどれだけの想いがあるのか、胸を打たれます。
ラストシーンまで、すっと心に染み入るようでした。
全編を通して主人公の1人称視点で書かれていますが、無線通信機で相手との会話を行います。携帯電話のような完全な相互通信ではないため、交互に話をする必要があります。「どうぞ」という言葉で会話を締めくくり、相手の反応を促すのです。つまり、あまり長時間一方的に会話はできません。
それが妙味で非常に味のある文章になっています。
最初に「CQ」という言葉が出てきますが、これは不特定多数の人に呼び掛けるサインです。「CQ、CQ、CQ」と3回繰り返すのは1回だけではわかりにくいから、3回繰り返すようになっています。興味のある方はアマチュア無線で検索してみてください。
このことから、当初主人公は誰か不特定多数の人に呼び掛けていることが分かります。
それを踏まえると、ラストシーンでどのような想いを抱いているのか、改めて考えさせられます。
素晴らしい作品でした。
非常に素晴らしい掌編で、分類的にはSSと呼ばれるジャンルに位置づけられる物語。
文章の全てが無線による台詞で構成されて、発信するものと、受け取るものの二者のみが存在する静謐な物語で、描かれた未来は厳しくもあり、優しくもある。
ありったけのロマンと美しさがつまったこのお話が、たくさんの人に読まれることを願って僕もこのレビューをネットの海に送信したいと思う――
――……CQ、CQ、CQ
PS、この物語を読んでいる最中、僕の頭の中ではずっとデビット・ボウイの『スペイス・オディティ』が流れていた。みなさんも、ボウイの歌声に耳を澄ませながらこの物語を読んでみてはいかがですか?
Ground Control to Major Tom
皆さんは、無線通信をしたことがあるだろうか。
科学の実験で、あるいは少し奮発して買った鉱石ラジオ作成キットで、肉声の聞こえない隔たった場所から、無線に乗せて言葉を飛ばす。
音声はノイズ交じりで掠れている。使える波長は本当に弱弱しいもので、時には波長を間違えて聞こえなくなる。何度も何度も言葉を重ねて、波長を合わせ、それでも何かの拍子にぷっつりと途切れる。
この物語は、そんなノイズ交じりの無線通信のように、繊細で、だからこそ愛しい物語だ。
この物語を読みながら、どうか終わりゆく日に昔日の美しさと哀愁と情念を感じ取ってほしい。それもまた、物語ならではの輝きなのだ。