第5話 神か悪魔か
そして――占い婆さんはいつもの場所に居た。このお婆さんが神か悪魔か。私は乱暴にどっかとイスに座った。
「ちょっと、お婆さん!」
私は開き直った。
「あなたの占いははずれてばっかりなのよ! しかも100%はずして、かわりに裏のことを当てる。いや、『当てる』というのも正確な言い方じゃないわね。当たりを『引き寄せてる』のよ! 占ってもらいに来た人の人生の一部を代償に!」
私はまくしたてた。なんとか、なんとか生き延びる手段を考えなくてはならない。私が当てた宝くじの百万は、私があと二~三年フリーターをやっていれば稼げたハズのお金。私がバイトを辞めるということで、私が稼ぐハズだった百万は私の手から逃げた。そして代わりに宝くじの百万を手に入れた。つまり、百万の宝くじに関しては相殺(そうさい)されているハズである。
あとは、三億円分に相当する「私の人生」を、どうやって取り戻すか。
お婆さんが口を開いた。
「ほっほっ、今日のあんたは元気じゃのう。だが、何か勘違いしておるようじゃな。わしは占い師などではないぞ」
「なっ、何をいまさら! あなた毎回『見料千円じゃ』って、お金取ってたじゃない!」
私は頓狂な声をあげた。
お婆さんは落ち着き払って言った。
「よく見てみい。ここに『占い』とかの看板がでておるか?」
私は改めて周りを見回した。
……ない……。そんな馬鹿なっ!
「そんなこと言ったって、あなた、カリスマ占い師なんでしょ!?」
私は必死で食い下がった。
だがお婆さんは冷たく言い放った。
「それは周りの人達が勝手に言っておることじゃろう。それにわしは『占ってやる』などと言ったことは一度もないぞ。『見てやる』とは言ったがのう」
そんな……。完全にしてやられた訳か。
「ところでお主、今日はいい顔しとるのう」
突如お婆さんが話題を変えた。
「えっ?」
「ほっほっ、今日のあんたは光り輝いておるぞ。今日はお主にとって、人生最良の日じゃ」
「何をたわけたことを――」
そこまで言って、はっと気付いた。
「まさか……」
「そうじゃ。この水晶玉で『見た』のじゃ」
人生最良の日。その反対は。
ガタッ。
私は恐怖で立ち上がった。
「なっ、なんとかならないの!? お婆さん!」
「ほっほっ」
お婆さんは笑っているだけで何とも答えない。
「くっ、この! こんな水晶玉なんか!」
私は水晶玉を両手で掴むと、思いっきり地面に叩きつけた。
バキャァン!
派手な音をたてて水晶玉は砕け散った。
「はは、やったわ。これで私も助かっ……」
「やってしまったのう……」
お婆さんの声がかぶさった。
はっとお婆さんの方を見ると、お婆さんはもはやお婆さんではなくなっている。お婆さんではないし、お爺さんでもない。そして老けてるのか若いのかも分からなくなってきた。
「その玉が割れた以上……わしは……ワシハ ヒトノ カタチヲ タモツコトガ デキナイ……ホッホッ」
お婆さんだったものはそう言うと、ビルの出口に向かって歩き出した。いや、飛んでいるの? 歩いているのか飛んでいるのかも分からないそいつは、まだなんとか「人型」を保ちつつ、階段をスーッと上がって行った。
私は後を追った。
「お婆さん! 私はどうなるのよ!?」
正体不明のそれに向かって、私はまだ「お婆さん」と呼びかけた。認めたくなかったのだ、お婆さんが人外の者だなんてことを。
だが次の瞬間、私の一縷の望みは打ち砕かれることになる。
「シャアァッ!」
それは叫んだ。道行く人にはそれが見えていないらしく、人々は一人で叫ぶ私に奇異の視線を送っている。
絶望――。そして、なんとなく分かった。今、奴は「ほっほっ」と言ったつもりなのだ。
私は大通りまでそれを追って、そこで追跡を諦めた。それが空に飛び立ってしまったから。
どうしようもない。私は空を飛べる訳もなく、仮に追いついたとしても、もうどうしようもない……そう、悟ったから……。
そして私が最期に見たモノ。それは大きな黒い翼を広げて宙に舞う、一匹の異形の獣だった。それはバサバサと翼を羽ばたき上空へと飛んで行った。
私は佳子の言葉を思い出していた。
――『そんなことが出来るのは神様か悪魔じゃない』
だが代償を奪う神などいない。
そう、奴はまさしく――
猛スピードで走る十トントラックが、路上で立ち尽くす私の真後ろまで迫っていた。
クラクションは無かった。居眠り運転である。
死の瞬間、私は思いだしていた。
そういえば、私って臓器提供者(ドナー)カードを持ち歩いてたんだっけ……。私の臓器が三億円相当? でも、使える臓器は少ないだろうな……。
背後のトラックを振り返った瞬間、私の意識は途絶えた。
(了)
感想などお待ちしております(^^)/
100%はずれる占い 佳純優希 @yuuki_yoshizumi
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