第4話 三億円の代償

 翌日。私はバイト先の店長に電話をいれ、もう働かない旨を伝えた。店長は「急に辞められては困る!」などと言っていたが、私はお構いなしに電話を切った。どうせ二週間後には一等と前後賞合わせて三億円入るのだ。バイトなんぞやってられるか! 

 そこへ佳子がやって来た。

「お姉ちゃん、バイト辞めるの?」

「う、うん」

「これからの生活費は?」

「それは大丈夫。あてがあるから」

「ふーん……。あ、お姉ちゃん、例の占い師だけど」

 一瞬ドキリとした。

「あの占い師に、お金関係のこと占ってもらっちゃダメだよ」

 えっ? 私は驚きを隠してさりげなく聞いた。

「どうしてダメなのよ?」

「あの占い師……占い師かどうか疑わしいって話もあるんだけど、必ず占った代償を奪うから。それにお金のことを占ってもらった場合の代償は、特に大きいのよ」

「大きな代償?」

「だってそうじゃない。100%はずれるってことは、反対のことを100%当ててるってことでしょ? そんなことが出来るのは神様か悪魔ぐらいのもんじゃない。だから『はずした』代償に何かを奪うのよ」

 私は真っ青になり、胸が苦しくなってきた。そんな……あの占い婆さんが神か悪魔……。

 私は動揺を必死で隠し、話を続けた。

「佳ちゃん、あんた受験運占ってもらったんでしょ。その後何かあった?」

「私は、足の親指の爪が剥がれたわ。もっとも、ただ転びかけただけの事故で、占いと関係してるかは分からないけど」

「…………」

「怖いのはお金関係よ! 私の友達が『宝くじ』の当たる時間をあの占い師の所に訊きにいって――占ってもらったのよ」

 私と同じだ。

「そしたら見事はずして……つまり当たって、百万円手にしたのよ」

 私と同じ百万円?

「それでどうなったの」

 もう胸には血がドクンドクンと流れ、息をするのも苦しくなってきた。

「大きな声じゃ言えないけど……レイプされたわ。夜、塾の帰りの裏通りで……」

「なっ……!」

「彼女言ってた。『百万円なんていらない! 私の人生を返して!』って」

 私の精神は極限状態に。

「なんでそれを先に言わなかったのよ!!」

 大声で叫んだ。

「なんでって……まさか、まさかお姉ちゃんお金関係のこと占ってもらったの?」

「――――」 

 そうか、そういうことなのか……。

 全ての謎は解けた。

 マニアの間ではカリスマ的存在だけど、いつ行っても列が出来ていない理由(わけ)。あのお婆さんが「正のこと」を知っていながら、「裏」の答しか言えなかった理由(わけ)。たまたま買ってきた宝くじが百万円当たった理由(わけ)。

 私の体の具合が悪くなったとき、お婆さんが元気になっていった理由(わけ)。

 そして、三億円の代償に、私がこれからたどる運命……。

「お姉ちゃん!?」

 佳子が不安げに私を呼んだが、私は振り返らずに返事をした。

「出かけてくる!」

 私はコートを羽織り、お婆さんの居るビルに向かった。


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