第3話 秘めていた野望、実行

 翌日曜。早起きした私は新聞を広げ驚愕した。

「あ、当たってる……百円と、百万!!」

 思わず叫んでしまった。が、まだ家族は全員寝ている。

 よっしゃ! あのお婆さん、やはりただ者じゃない! 完璧に「正反対のことを当てる」ことが出来るんだ!

 私はトーストをコーヒーで胃に流し込むと、早速占い婆さんの所へ向かった。

「ちょっと早すぎたかな……」

 私は独りごちた。時刻は七時過ぎ。何故かビルの扉は開いているが、こんな朝早くから占いをやっているとは考えにくい。それに急ぎすぎたせいか少し、いや、かなり気分が悪い。頭痛と吐き気が同時に襲ってきた。

 私は少し休憩してから、お婆さんの居る場所――地下の寂れた一角によろよろと向かった。

「お婆さん!」

 占い婆さんは、何事もないかのようにいつもの場所に居た。老人の朝は早いというけど、それ以前にお婆さんの仕事は成り立っているの?

 私は多少の疑問を抱えつつイスに座った。お婆さんは何故かいつもより元気そうだ。

「なんじゃい、またあんたか。ほっほっ」

 私は遂に野望を実行することを決意した。

「実はお婆さん、今日占ってもらいたいのは――」

「見料千円じゃ」

 お婆さんが口を挟んだ。まあいい。私の野望達成の為だ。多少のことは目をつぶろう。

 私は千円札を渡した。

「で、なんじゃ?」

「今日私、駅前の宝くじ屋でジャンボ宝くじを買おうと思うんだけど……」

「ふむふむ。当たりが買える時間帯を見ろというのじゃな」

「ううん、違うの。この時間に買ったら絶対はずれる、『一番運勢の悪い時間帯』を当てて欲しいの」

「なんと。そんなことを当ててどうしろと言うのじゃ?」

 お婆さんの占いは100%はずれるから、などとは言えない。確実に正反対のことを当てるから、とも言えないし――。

 私は開き直った。

「お願い! お婆さん! お金払ったんだから、理由は聞かずに当ててちょうだい!」

「ふむ。あんたはそれでいいんじゃな?」

「は? ええ、もちろん!」

 お婆さんは水晶玉を覗き込んだ。

「――ふむ、十一時。正確な時間は分からんが十一時になってから一人、客が買いにくる。その次に十枚買いなされ。禍々(まがまが)しい三枚のはずれくじが並んでおる。連番じゃ」

 連番で三枚の大はずれ、つまり連番で三枚の大当たり? それって一等と前後賞のことじゃないの!!

「ありがとう! お婆さん!」

 私は一目散に駅前の宝くじ屋へ向かった。

 数時間が経過した。十一時まで時間があるので、手持ちぶさたの私は缶コーヒーを飲みつつ駅前をブラブラと歩いて時間をつぶした。

 そして十一時が訪れた。

 私は宝くじ屋の前で買うタイミングを窺った。するとすぐに一人の客が買いに来た。私はすかさずその後ろに並んだ。

 手前の客は一万円札を三枚出している。三百円のジャンボくじを百枚買うつもりらしい。フフ、幾ら買っても私が買う十枚に一等と前後賞が入っているのに。私は悠々と十枚の宝くじを買い、急ぎ足で家に帰った。


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