記憶の欠片




 ぽろ、ぽろ、ぽろ、ぽろ。

 ──ああ、また抜け落ちる。

 大切な、大切なものが。

 落としたくはないのに。

 失くしたくは、ないのに。

 ぽろ、ぽろ、ぽろ、ぽろ。

 今日もまた、私から抜け落ちる。

 ああ、明日私は、どこまで憶えていられるのだろう。

 今失くしたものは、どの記憶だろうか。

 もう、私にはそれも分からない。

 ぽろ、ぽろ、ぽろ、ぽろ。

 ──どうか、私が壊れる様をあなたが記憶しないでくれますように。

 目から落ちる雫は、記憶の欠片。




 ぽろ、ぽろ、ぽろ、ぽろ。

 ──ああ、またあなたから想い出が消え去った。

 二人で作った、大切な想い出が。

 ぽろ、ぽろ、ぽろ、ぽろ。

 今日もあなたは、失って行く。

 ──怖いだろう。苦しいだろう。

 なのに私は、語って聞かせる程度しか出来ない。

 ぽろ、ぽろ、ぽろ、ぽろ。

 記憶を失くしたあなたは、皆の知るあなたではないはず。

 でも、あなたはあなただ。

 どんな姿になっても、私の愛しい人に変わりはない。

 ──ほら。泣かないで。

 あなたが私を忘れても、私はあなたを憶えてる。

 あなたから落ちた記憶の欠片は、私が出来得る限り拾おう。

 これからも共に、歩んで行くのだから。






【記憶の欠片・完】

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短編集 永才頌乃 @nagakata-utano

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