誓い




 ──なあ、お前は何を見ている?


 暮らすアパート近くの公園。

 気になり視線を追うが、その瞳が捉えているものが何か分からない。

 今一度、君を確認するが、やはり何かを瞳に映しては嬉しそうに頬を緩めていて。

 それに、同じものが見えなくて拗ねる気持ちと共に、君が幸せそうで嬉しいと思う気持ちが湧き上がる。


 ──さわっ、と優しく風が吹き、君の許へ葉を一枚運んで来た。


 可愛い君に、自然が齎した色が映えて見え。思わず、己の表情筋が弛緩する。

 その時だった。君と視線が合った気がした。が、しかし直ぐにその可能性を捨てる。


 ──そんなはずはない。お前に俺は見えないのだから。


 自分は命ない者。命持たぬ者。──生きている君とは異なる者。

 なのに君は、見えないはずの存在に向かって手を伸ばす。


 そんなはずはない。見えているはずはない。


 そう思っているのに。そうと、知っているのに。

 ──自分に向かって伸ばされているのかも知れないその手に、己の手を重ねてみた。



「──あら、どうしたの?そんなに笑って」



 傍にあるベンチに腰掛けていた君を産んだ女が不思議そうに声を掛ける程、手が重なった瞬間に、言葉を未だ知らない君は声を上げて笑ったんだ。


 ──ああ。お前には見えているのか。そうか。俺が見えているんだな。


 穢れを知らないその瞳は、通常ならば見えるはずのない存在を捉え、そして受け入れて。

 小さな小さな手は、触れる事の出来ない存在を確かに感じ取る。

 己の頬が喜びを抑え切れずに緩めば緩む程、君はそれを見て嬉しそうに声を上げてくれ、今まで感じた事もない幸福感に心が満たされた。



 ──護ろう、ずっと。お前がこの世で息をする限り。悪意を、災難を、お前の身から遠ざけよう。だから、どうか俺を受け入れたその広い心を、笑顔を忘れずに生きてくれ──……。






【誓い・完】

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