かつて生きていた。もう死んでいる。まだ老いていない。水の匂いがする。

100話を数え、30万字に届かんとする作品のレビューとしては
いささか的外れで間抜けなことを書いてしまうかもしれない。

よくあるローカルな都市伝説のような体験談から語り起こされ、
語り手が別の人物へと移り……いや、「人物」ではないのか。
とにかく、語り手が次々と移り変わり、死と怪異と罪と不死と、
そうした種々の「業」とも呼び得る不思議な有様が描かれていく。

水死体。能面。人魚。生者。雨を呼ぶもの。罪を犯したもの。
子を孕み命をつなぐこと。死んだ魂が渡る川。狂い咲きの桜。
沼。澄んだ水。雨。ゆかりある名前。呪い。片割れ。若返り。
薄暗くもどこか甘美な情景が、折り重なるように展開される。

おしえて改善点! カクヨムWeb小説コンテスト応募作品反省会
という企画で本作『孕み人魚と惡の華』が気になってフォロー。
独特の幽玄な語り口と世界観は企画の評価通り確立されている。
民話風味の怪談が好きな人にはたまらない作品だろうと思った。

私は普段、怪談もホラーも読まないため、少し難しく感じた。
抽象的な情景を思い描くこと、心象風景を具象化することが
私はどうやら苦手なようで、とはいえ難しいと思いながらも、
続きが気になってしまい、暇を見付けて少しずつ読み進めた。

セガンティーニ作『悪しき母たち』

作中に登場した絵画だ。ウェブで検索して画面に表示して、
ああ私が思い描けずにいた情景はこれなのか、と得心した。
もしもこのレビューでその絵が気になったら、ぜひ検索を。
その絵に強く惹かれるなら本作にも引きずり込まれてほしい。

(実はまだ最後までたどり着いておらず。ぼちぼち読みます)