13歳の公爵、世界統一目指してます!

AZUNA☆

Chapter 1: 誕生日

その日は姉の誕生日だった。朝一番に、4歳年上の姉の18歳の誕生日にあげるプレゼントを買いに街へ出かけた。この年は姉にとってとても大事な年なのだ。この夏に、姉の人生が決まる。そう、姉はカナダにバレエ留学しようとしているのだ。この夏のサマースクールに参加し、認められれば9月から姉はカナダに行ってしまう。一緒に過ごせる最後の誕生日になってしまう可能性が高いため、今年は気合を入れて誕生日プレゼントを選ぶことにしたのだ。


私は綾瀬風紀あやせふうき。今は上海に住んでいる中学2年生だ。インターナショナルスクールに通う、一般的な日本人。東京に生まれ、4年生までは私立の小学校に通っていた。自分で言うのもなんだが、クラスでは目立つ存在で、リーダー的存在だったと思う。しかし、そこからの人生は平凡なものではなかった。最初は、父の仕事の都合で家族で上海に渡ることになり、初めてインターナショナルスクールに通い始めたことだ。最初は全く英語がわからなかったため、学年を下げて3年生から入ることになったが、不安はぬぐいきれなかった。だが、そこでも社交的な性格も相まって、すぐに友達に囲まれる存在になった。最初、上海にくることにすら強く反発していた私は、やっと落ち着いたと思った。しかし、4年生になって転校してきた女の子とトラぶってしまった私は、居心地が悪くなってしまう。さらに、中学部に入っていた姉が先生とうまくやって行けず、2人して新しいインターナショナルスクールにまた転校することになった。やっと友達と仲良くなっていた私は、抵抗した。ところが、母は新しい学校だと5年生から入れる、つまり一学年下げていた私を本来の学年に戻せることに乗り気だった。結果、私は日本でいう5年生の2学期から新しい学校に転校したのだ。そこで、私は悲惨な半年間を送ることとなる。周りはネイティブスピーカーばかりで、英語についていくのは困難だった。それ以外にも、IBプログラムという普通の学校とは異なる勉強のやり方に苦しんだ。5年生ということもあり、女の子たちはみなグループに分かれていて、入っていくのは難しかった。先生も私がアジア人ということで、特に厳しかった。毎日、いやいや学校に行き、ついていけない勉強を受け、1人で食事をし、休み時間は図書室で一人読書をしていた。毎日が辛くて、自分の人生を恨んだ。学校を転校させた母のことも恨んだ。自殺も何度も考えたが、勇気がなく、できなかった。明るくオープンな性格は、一見暗く、きつい性格に変わってしまった。家でも八つ当たりばかりで、家族との仲も悪くなった。けんかばかりの毎日。寂しかった。そして、悪夢のような半年間は終わった。長かった。インターナショナルスクールのため、5年生が最高学年だ。6年生からは中学生とみなされる。私は嫌な思い出のある学校を卒業した。だが、普通のインターナショナルスクールと同じく、高校3年生まである学校なため、私は中学部の6年生を迎えるのだ。希望があった。それは、クラス替えとすべての教科について先生が違うということ。前は、1人の先生が勉強を教えていたため、その先生から嫌われていた私は苦しんだ。でもそんなことはもうないはず。そう信じた。そのかいあって、私はずっとましな6年生を送った。友達も自然にでき、7年生―日本の中学1年生―になると、もっとずっと良くなった。親友が2人でき、その3人で学年の中心にいる人物の一人となった。やっと本来の自分に戻れた気がした。ただ、家族との関係は日に日に悪くなっていった。家から帰ってくるとほとんど寝るまで自分の部屋で過ごした。普通に喋るが、私が避けてしまうのだ。今は7年生が終わった夏休み。私は母と姉とともに日本に一時帰国していた。


「どれにしようかなー。高いなー。でも圭のためだから!」

いつも行くようなかわいくて安い、学生向けの店ではなく、もっとちゃんとした、高級なアクセサリーを売っているお店の中を歩き回りながら私は一人呟いた。これから何が起きるかも知らずに。ふと、あるネックレスが目に留まった。ターコイズブルーのペンダントだ。電気の光を反射して輝いて見える。値段を見ようと足を進めた途端。

「お客様、何かお求めでしょうか?」

私をじっと見つめていた店員が駆け寄ってくる。きっとまだ子供の私が商品を買いに来たのではなく、遊びに来ただけだと思ったのだろう。憤慨した私は、ニコリと笑いながらも鋭く店員を見つめた。

「そうなんです。姉への誕生日プレゼントなんですが…。一万円相当のものってありますか?」

まさか買うとは想定していなかったのだろう。慌てて店員は態度を変えた。

「申し訳ございません。どのようなお品をお探しでしょうか?」

「ネックレスとピアスを探してるんです。ネックレスの方は、小さな宝石がついた感じので、同じ宝石のピアスがいいんですけど、ありますか?」

「ございます。お姉さまはおいくつになられるのですか?」

「18です。若々しいのがいいんですが。あはは」

「それでしたら誕生石のアクセサリーなんかどうでしょうか?」

店員がニコニコしながら誕生石コーナーに案内する。

「お姉さまの誕生日は?」

「姉の誕生石はルビーです。ただ、赤があまり好きではないので。どちらかというと、青とか水色とか紫なんかが好みなんです」

私は苦笑いしながら答えた。

「そうでしたか。ではこちらなんかどうでしょうか?ブルーサファイアのプチネックレスです。これのおそろいのピアスもございます」

私は定員が指差したネックレスをじっと見つめた。

(きれい…。)

ついついため息が出てしまうほど、その宝石は美しかった。引き込まれそうなほど真っ青なサファイアなのだが、なぜか水色が入っているような気になってしまうのだ。そして何よりも、自分を呼んでいる気がした。

「このサファイアは獅子座の守護神アポロンと7月の守護神、大天使ミカエルが流した涙が混ざった宝石だといわれているのです。だから青の中に水色が入っているような気がしてしまうのです。お姉さまにぴったりではないですか?」

私はネックレスから目が離せない。まるで海底の宮殿が浮かび上がってきそうな青。そこに日が差し込んでいるように見える。もうほかの宝石を見るつもりはなかった。値段も関係なかった。

「これにします。ピアスとセットで」

「かしこまりました。合わせて、2万5000円です。ラッピングいたしますので、少々お待ちくださいませ」

さすがに値段を聞いて鳥肌が立つ。

(2万5000円…。高すぎっ。3万円持ってきててよかったぁ。)

ため息をつきながら私は現金を取り出し、カウンターに置いた。すると、ラッピングをほかの店員に任せ、先ほどの店員がレジで会計を始めた。

「お買い上げありがとうございます。当店では只今、2万円以上お買い上げになったお客様のみ、1万円以下のお好きな商品をプレゼントするお得なキャンペーンを実施しております。ご希望の品はありますか?」

あまりのキャンペーンに、私はポカンと口を開ける。

(一万円?そんなの無料でもらっていいの?怪しいお店とかじゃないよね…。)

周りを見ると、客はたくさんいる。繁盛しているようだ。ではやはり、無料でプレゼントするということなのだ。

「お客様?ご希望の品はありますか?」

黙りこくった私に店員がもう一度問いかける。

「あっ!それじゃあ…」

値段はわからなかったがさっき見つけた、ターコイズブルーのペンダントが気になった。その前まで歩いていくと、1万1000円のタグが目に入った。

「はぁー。ダメかぁ」

あからさまにがっかりしてしまったのだろう、店員が慌てて駆け寄ってきた。

「こちらでございますか?そうですねー、お姉さまの誕生日を記念して、1000円おまけいたしましょう。すぐに装着なさいますか?」

店員が笑って言った。それを聞いた私はパッと顔をあげた。

「いいんですか?ありがとうございます!」

私は満面の笑みで店員にペコペコお辞儀をした。すると、ちょうどラッピングが終わり、もう1人の店員が出てきた。

「お待たせいたしました。こちらでございます」

私は袋を受け取り、もはや神様にもなった店員からペンダントを受け取った。すぐにつけてみる。すると宝石が暖かくなったような気がした。気のせいか、光も強まった気がする。するとその店員がこういった。

「そのペンダントは射手座の守護神、ゼウスが一番愛する妻に送った宝石のかけらだといわれているのです。ターコイズなのですが、射手座の守護神からの贈り物として射手座の守護石、トパーズが中に埋め込まれているんです。だからそんなに光るんですね。トパーズは指導者の高貴な石、ぜひ上手に使ってください」

「射手座…。実は私、射手座なんです」

わたしが宝石をじっと見つめていうと、店員はにっこりと笑った。

「では、あなたを守ってくれることでしょう。お買い上げ、ありがとうございました」

私は上機嫌で店を出た。通りに人があまりいないことにはちっとも気づかずに。

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