Chapter 4: 本当の自分…。私は誰?
「ママ、パパ、
それは私の家族だった。
(なんでここにいるの?みんなそろって誘拐?なわけないよね。)
何がどうなっているのかサッパリわからなかった。それはどうやら圭も同じ。混乱した顔で私を見つめていた。視線を移すと我が両親は無表情だった。その時また扉が開く。いかにも執事の身なりをした老人は、私達綾瀬家の前に立って、丁寧にお辞儀をした。髪は真っ白で顔にはしわが見えるものの、背筋をピシッと伸ばししっかりとした足取りで堂々と歩く姿はとても優雅だった。高年齢を感じさせない。
「お嬢様、どうぞお座りください。」
呆然と突っ立っていた私を見て、その老人は私に座ることを勧める。言われるがままに、圭のとなりに着席した。
「わたくしめは、トトと申します。お久しぶりでござます、
そういうと、トトと申す老人は私の両親に向かって深々とお辞儀をした。それを、2人は黙って見ていた。
「圭様、並びに風紀様はさぞ混乱しているでしょう。簡単にご説明させていただきます。かつて、あなたがたのお父上、信三様は公爵でありました。由佳様は信三様に嫁がれた、とある伯爵家の妹君でございます。しかし2人は公爵、並びに侯爵夫人になることを拒否されましたゆえ、あなたがたは何も存じていない次第です。」
あまりにも突拍子のない話で、私は呆気に取られた。
「は?」
私が圭を見ると、何が何だかさっぱりわからない圭がいた。
「ってか、コウシャクとかハクシャクって何?」
全員に聞こえるような囁き声で、圭が私に聞いた。すかさずトトという名の老人が答えた。
「貴族に与えられる位でございますよ。
まるで教科書から読み上げている説明に、圭はついていけていない。
「そうなの?」
圭がすかさず私に聞く。我が姉ながら、無知過ぎて驚く。
「そうだよ。でも貴族に与えられる称号で、私達庶民とはかかわりはないし。でも貴族なんて、本の中のお話って感じ。イギリスぐらいしか思い出せないなぁ。」
読書家の私は、愛読している本が貴族の話で、多少の知識はあった。しかし現実になると、どうもピンとこない。
「確かに公になっているのでは、英国が一番一般的でしょう。ですが、実はいろいろな各国にある制度なのですよ。」
私に向けて放たれた言葉に私は少なからず疑問を持つ。
「それで?それがどう私達と関係があるのですか。大体これは事実なのですか?」
ちょっとキツク言いすぎたかもしれない。しかし落ち着いている老人はきちんと私の問いに答えた。
「事実ですよ、お嬢様。」
サラリと言われるとさすがに反応に困る。どうしようもなかったので、私は次に沸いた質問をぶつけた。
「なんで今更?私は13年間、姉は18年間も生きてきたんです。なんで今更になってそんなことを言われるですか?もっと早く教えてくれなかったのはなぜなんですか。」
質問がありすぎて、なかなか一つにまとまらなかった。その中で、最重要だと認識した質問からする。もちろんこの質問にも、全く動じない老人は落ち着きながら答えた。
「由佳様、及び信三様は自分達の地位を放棄なされました。しかしいくら放棄したからと言って、その子供達まで放棄するとは限りません。本日はその確認にてお越しいただきました。」
なるほど。つまり私達が放棄したいのか、それとも莫大な権力を手にしたいかと聞いているのだ。
「なんで今日なの?今日は私の誕生日なんだけど。」
まだうまく話しについていけていない圭は、たった一つ理解したことについての疑問を口にする。
「そうです。今日が圭様、あなたさまの誕生日だからですよ。あなたは今日、18歳となりました。その意味がお分かりになりますか?」
初めて老人の方から問うた。なるほど、そういうことか。
「今日、圭は18になった。つまり、正式に侯爵家を継げるということ。だから今日なんですね。そうか。それで今日は圭の意思を聞きに来た。違いますか?」
相変わらず無知な圭の代わりに、私は答える。
「全くその通りです。」
その時初めて、母が口を開いた。
「そんなのっ!娘を公爵に就かせるなんて、そんなこと許すわけにはいかないわっ!私達はそれが嫌で、自分達の地位を放棄したのです。お忘れではないでしょう、トト。」
初めて聞く、母の上品は口ぶりに私は呆気に取られた。何も言えずにいると、今度は父が、初めて聞く重々しい口調でしゃべり始めた。
「それに公爵の地位に付けるのは、男性だけだ。うちには娘しかいないのだぞ。この2人に、命を脅かす様なまねはできない。悪いが引き取ってくれたまえ。」
有無を言わさない口調に、トトが引き下がると思いきや、思いがけずトトは反論した。
「お言葉ですが、本日はお二方ではなく、お嬢様がたの意思を確認しに参りました。それに、申し訳ないのですが、女王が必ず圭様を公爵に就けろとご所望なのでございます。ボディガードはもちろんのこと、厳重な警戒を怠るつもりはございません。圭様、公爵になっていただけますか?」
最大の敬意でトトが頼み込む。そこにまたもや母が口出しした。
「圭は!娘は今年、カナダにバレエ留学するためのオーディションを受けに行くのです!公爵につけば、そんな時間はありません!圭、バレエができないんだよ。やめときなさい。」
最後は納得させようと必死だった母に、圭の表情が真剣になった。
「バレエが出来ないんだったら、悪いけどその公爵とやらにはつけないかなあ。」
ぼんやりしているけど、人一倍バレエが大好きな圭は、そこにやたらと食いついた。
「バレエなど、公爵になれば一流の先生から習えるのです。あなたが望む先生を全員、雇うことも可能なのですよ。」
今度の甘い言葉は、圭に大打撃を与える。
「ホントに?パリオペラ座とか、ロイヤルの先生も来てくれるの?」
目をキラキラ輝かせた圭に、すかさず母が割って入った。
「結婚は?18歳ならば社交界デビューを目前としています。彼女を18歳で結婚させるつもりなのですか!しかも好きでもない相手と!」
母の凍てつくような視線に、私は凍り付いた。そうか。公爵につけば、政略結婚になるわけか。それは圭にはさせてはいけない。バレエ一筋の圭からバレエを奪えば、何も残らないのだから。話がわかっていない圭の横で、私は決心した。
「私!私がなる!公爵に!」
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