Chapter 6: 能力
結局母に勝った私は、トトに特別な部屋に案内された。家族はさっきの部屋で待機。後ろから両親の怒鳴り合う声と、圭のなだめる声が聞こえてきて少しだけ後悔した。
(でも圭のためだから!)
私がこの公爵に立候補した理由の一つは、圭のバレエのためだ。もし私が公爵になれば、圭に一流の先生を就けることができる。しかもお金に困ることがないのだ。私は家族と不仲だけど、それでも家族を思う気持ちは誰よりも強い。親孝行するために、家族を金銭的に援助するために、私はこの役を引き受けた。
「どうぞお座りください、風紀お嬢様。」
案内された部屋は今まで見た中で一番綺麗で美しい装飾が施された部屋だった。煌びやか過ぎて、どこかの王族の部屋じゃないかと目を疑う。よくアニメであるように、私は
(なんて座り心地のいいソファなんだろう…。上海の家のソファとは大違いだなー。)
ソファにスリスリしていると、トトが苦笑しながら反対側の椅子に腰を下ろした。
「まさか風紀お嬢様が公爵になっていただけるとは、思いませんでした。少なからず、驚いてしまいましたが、確かにお姉さまよりは向いているのかもしれませんね。」
「公爵になるのはいいのですが、いろいろと質問があって。全部答えて頂けますか。」
頭の中が質問で埋め尽くされている。
「もちろんでございます。」
「なぜトトさんはそんなに両親に忠実なのですか?」
「トトさんなど恐れ多い。トトで構いません。それでは、とても長く、難しい話になりますが風紀お嬢様のご両親、お姉さま、並びに風紀お嬢様ご自身の出生の話をいたしましょう。それで、頭の中にある疑問が恐らくはほとんどなくなるでしょう。」
私は無言でうなずいた。ぜひ聞きたい。
「リリーマーレ・アデライア・ハークレー。これがお嬢様の正式な名前でございます。ハークレー公爵家は何百年も前から王家に忠実に仕えてきた貴族です。ほとんどのハークレー公爵たちは王家の方たちと同級生だったのです。お嬢様のお母さまはエミリーナ・シャロン・タルボット。英国ではその名を知らない人はいないほどの人気でした。
静かに聞いていた私は質問に頷く。アニメ好きの私はすぐにわかった。
「私、あのアニメ大好きなんですよ!」
興奮気味に訴える私にトトは頷きながら続けた。
「では内容はご存知でしょうが、あのアニメはわが社がスポンサーなのですよ。あの能力を使うことが、現実でできるのです。アニメに出てくる能力は我々ハークレー家が開発したあるミクロがモデルです。体内に埋め込むことで、体に秘められている能力を開花させることができるのです。
圭様が生まれる前、その実験に初めて成功したハークレー家は急に存亡の危機にさらされることになりました。極秘で行っていた実験が、外部に漏れたのです。瞬く間に他の貴族から、ミクロを狙われることとなりました。しかし面白いのが、一度他の貴族にミクロを盗まれた時、使った本人が死に至りました。どうやらハークレーの血が流れていないとこのミクロを使いこなせないようです。そしてそんな時、エミリーナ様が身籠っていることを発見したリーアラン様は、2人で公爵、公爵夫人の称号を捨てる決心をしたのです。生まれてからずっと不自由なき暮らしをしていた二人は、庶民として日本に渡りました。その時に我が社の進歩している技術で外見を変えました。あの2人は仮の姿なのです。そして圭様やお嬢様もまた、生まれた直後に手術をしておられます。エミリーナ様とリーアラン様、圭様やお嬢様は皆、とてもお美しかったです。ハークレー家は、美男美女の集った貴族なのであります。」
最後は満面の笑みで、トトは話を終えた。そこで一つ質問。
「手術って?整形みたいな?」
「いえ。我が社には世界トップレベルの技術者たちが集っています。我々が呼ぶ“変装”は何十年も前に極秘に完成された実験に基づいて今も行われております。まず自分の体内のDNAを取り出し、他人のDNAを体内に取り込むことで、数日かけて外見が変わります。我が社ではこの数日かかる作業を1日で完了することに成功したため、お嬢様は明日にでも元の姿に戻ることができます。他にご質問はございますか?」
「その能力の話なんですけど、私は能力を使えるんですかね?」
私の質問にトトはニコニコと笑った。
「ではその前にお嬢様に今度は、公爵になった場合、お嬢様にやっていただきたい仕事のご説明をいたしましょう。」
私が頷くと、トトは口を開いた。
「まず最初に知っておいていただきたいことがございます。この世界にある3分の2の会社は、我が公爵家のものです。とても複雑なのですが、簡単にいったら、黒幕はハークレー家ということです。この公爵家が主に活動しているハークレー社は、社長になりたい、または社長の質がある人間をリクルートしている会社です。この社長たちが世界の大企業を操っているのですが、その社長たちを操っているのが我々というわけです。他の3分の1も我が社が株主という企業が多いので、貴族たちも安易には手が出せないのです。」
「ちょっと待って!どんな企業がうちの下で働いているの?」
「良い質問です。そうですね。お嬢様が知っている中では、アップルやナイキ、ウィンドウズやウォルマートなどでしょうか。全部世界のトップレベルの企業ですが、うちの下で働いているのです。」
「すごっ!てことは、私もしかして億万長者?」
段々面白くなってきた話に、なんで今まで公爵の話が出てこなかったのかちょっといらついた。
「億万長者?何を言っているのですか、お嬢様。もはや、兆万長者ですよ。そんなものが存在するのであれば。」
「それで、能力の話は?」
段々それてきた話を私は戻す。
「それです。まず主な仕事は雑務ですが…。他の貴族との食事会やパーティー、舞踏会などの交流全般です。本当はそれ以外にもハークレー社の経理や最終判断を下すのが公爵の役目なのですが、それはお若いお嬢様には難しすぎてしまうのではないかと。それと我が社は常々狙われています。研究者が誘拐や殺害されているのです。それをお嬢様が
「それは…。難しそうですねー。アハハハハハ。学校には行けるんですか?」
「まさか。家庭教師がいるのに野蛮なところに公爵を行かせるなど!いくとしたら、貴族限定の学校ですね。」
「でも私、学校行きたい…。」
「忙しくて学校に行く時間がございませんよ。」
抗議しかけたところで、部屋にノックの音が響く。
「由佳様と信三様が参加をご所望です。」
「入れたまえ。」
トトの指示で、ドアがゆっくりと開く。メイド服を着た少女がお辞儀をし、2人を案内した。そしてお辞儀をして出ていく。
(本物のメイドだー!)
初めて見るものにいちいち興奮している私を、トトの声が遮った。
「丁度いいところに。風紀様は学校に戻りたいそうです。公爵を務めながら学校に通うことが出来ないということを説明していただきたいのですが…。」
トトの丁寧な頼みに両親は揃ってため息をつく。
「風紀。学校に行きたいのなら公爵は諦める。どっちか一つだよ。」
父の一言でも私はめげない。
「そんなの試してみないと分かんないじゃん!」
「大体ね、あんた公爵になるんだったら、イギリスに帰るんだよ。どっちにしても今の上海の学校には帰れないの。それにどっちもできるようになったとして、学校の宿題と公爵の業務を両立できるわけない。」
「は?」
そこで私は初めて気づいた。本社があるイギリスに私は公爵として戻らなければならなくなるらしい。
「じゃあ、公爵は無理…。」
死ぬほど悔しいけど、学校は絶対に行きたい。家庭教師で社会をしらない公爵などになりたくないのだ。それを両親に主張してみると、思いがけないところから助け船が入った。
「ではこういうのはどうでしょう。まずお嬢様には貴重なこの夏休みという期間を使って、猛勉強をしてもらいます。もちろん一流の家庭教師をつけて、日本でいう高校卒業までの勉強を1か月で完了していただきます。そしてもう1か月は英国に滞在し、貴族のマナーや言葉遣い、我が社の見学や仕事を学んでいただきましょう。そうすれば、お嬢様が学校に戻った時、勉強には全く困らず公爵の業務に専念していただけます。上海の学校に戻るということであれば、信三様が表向きの公爵として英国で業務をいたします。これなら、お嬢様と女王のご要望、由佳様や信三様の心配もすべて解決する、最良の選択だと思いますが?」
両親は黙り込む。この解決策の落とし穴を探しているのだろう。そして数十秒後、母が口を開く。
「それでは、離れて暮らせと?」
「ご心配には及びません。私目はお嬢様の相談役として上海に滞在いたしますし、屋敷を一つこしらえましょう。お嬢様が能力を使いこなすことが出来れば、テレポートですぐに英国に飛ぶことも出来ますし、それが出来ない場合、プライベートジェットですぐに駆けつけます。」
完璧と言ってもいい策に、両親は散々迷った挙句、首を縦に振った。
(やったぁ!公爵解禁だぁ!)
13歳の公爵、世界統一目指してます! AZUNA☆ @AZUNA
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