Fox's keeper.

しゃち

第1話

「また明日も遊ぼうなー!!」

「うん、またね!明月くん!」

あの日は、小学生5年生の夏休み。特に宿題をすることもなく少年たちはいつもの踏み切りでそれぞれの家の方向へと別れてゆく。明月と呼ばれた少年が商店街の入口までまで来ると、頭上の時計から5時を知らせる音楽が流れ出す。『ようこそ青空商店街へ』そう書かれた看板を見上げると同時に、遮断機の降りる高い鐘の音が耳に入ってきた。

少し離れた遮断機を何気なく見ると、先程別れた親友の姿が見えた。

「またなー!」

彼はもう一度遮断機の前で立ち尽くす少年に手を振った。声に気付くと、少年は笑顔で手を振り返した。何かを言おうと口を開けるのが分かる。

「っ...!?」

その瞬間に親友の体は、遮断機を越すように走ってきた電車の向こうに消えた。親友の近くから悲鳴が上がる。


ーー なにが起こった? ーー


目の前で起こった出来事に頭が追いつか

ない。


ーー ダメだ、死んでほしくない ーー


当たり前の感情が胸を締め付け、意識が不安定になる。

今はただ、元気な親友の姿を見たい。『もしかしたら間一髪で避けられたかも知れない...!』遮断機の側まで来ると、現実を目の前に突き付けられた。

電車とぶつかった際に割れたガラスで切ったのか、苦しそうな息が喉の裂け目から漏れ出ている。苦痛に歪んだ顔は助けを求めるように親友である少年の目を見つめ、力なく垂れ下がった手足は数カ所折れているようで、普通では有り得ない方向へと向いている。

「なぁ...おい、✕✕?大丈夫だよな...!?すぐ治るよな...!?」

叫ぶように言うと、彼の目からは涙が流れた。そんな情けない親友の姿を見たくなかったのか、横たわったままの少年は緩く微笑んで見せ、重たげな首を一度だけ縦に振った。


ーー そして少年はピクリとも動かなくなった。 ーー

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